内容説明
「窮境を自分に乗り超えさせてくれる「親密な手紙」を,確かに書物にこそ見出して来たのだった」.渡辺一夫,サイード,武満徹,オーデン,井上ひさしなどを思い出とともに語る魅力的な読書案内.自身の作品とともに日常の様々なできごとを描き,初めて大江作品に出会う人への誘いにもなっている.『図書』好評連載.
目次
一章
不思議な少年
困難な時のための
感受性のある個性
ブクブク
本当のこと
「器用仕事」
人間を慰めることこそ
ヒヨドリ再説
新訳に誘われて
死者たちの時
ジョイスと武満
作曲家と建築家
二章
バロックのブクブク
愛をとりあげられない
幼児が写真を見る
品格の問題
ナンボナンデモ
返 礼
ノリウツギの花
真っさらのタンクロー
短篇作家の骨格
衿子さんの不思議
生活の隙間
三章
様ざまな影響
茫然たる自分の肖像
復 権
心ならずも
伊丹十三の声
しっかりやりましょう!
バーニー・ロセット
毎日毎日うつむいて
ラブレー翻訳は続く
キツネの教え
同級生
希望正如地上的路
四章
不確かな物語
もぐらが頭を出す
同じ町内の
鐘をお突き下されませ
ボーヨー,ボーヨー
偶然のリアリティー
実際的な批評
グルダとグールド
本質的な詩集
先生のブリコラージュ(一)
先生のブリコラージュ(二)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
73
短いエピソードだが読み終えて、内容のレベルの高さに撃沈・・・・大江作品も読んだことがないし、文学のこともすっからかんにわからない私は恥ずかしい思い。読み直してみたい。図書館本2024/03/05
kaoru
71
『図書』に2010~13年まで連載された「親密な手紙」をまとめた一冊。武満徹、義兄の伊丹十三、大岡昇平、恩師渡辺一夫、安部公房、E.サイードとの様々な交流が語られるかと思えば郷里の村のノリウツギが咲く山の斜面がゴルフ場建設のため削られたエピソードが登場する。グローヴ・プレス社の社主バーニー・ロセットが大江氏の英訳出版を後押ししてくれたことや東大の同級生で後にサルトルの研究家となった海老坂武氏の逸話も興味深い。そして大江氏の人生をある意味では決定づけた長男の光さんの存在。静謐な音楽のようにこちらの心に→2023/10/27
I (et al.)
33
人生において、入り込んでしまう窮境を、そのたび乗り越えさせてくれる「親密な手紙」。サイード、渡辺一夫をはじめ、作家仲間、友人、母、息子、妻まで、さまざまな人物が登場するエッセイだが、全体をつらぬく静謐さ、深さは、晩年の仕事にとりかかった大江の老境ならではであろう。2024/02/29
くまさん
27
「きみが今も持っている大切な本で、買った日付が一番古いものは何?」少し思い出すのに時間はかかるけれども、この文庫です、と答えられる。手紙は現在の読み手に宛てられている。著者の本と勉強と家族とをめぐる回想、狂気や希望や晩年についての言葉が、窮境に陥りそうになる自分を鼓舞してくれる。まずは読むことに徹すること、そしてしっかり生きましょう!と。「「狂気」によつてなされた事業は、必ず荒廃と犠牲を伴います」(渡辺一夫)。座右の言葉としたい。2024/03/09
hasegawa noboru
23
作家が「晩年の仕事」をしていた頃の消息を伝えることになったエッセイ集。家族を含め、小説でモデルとして近しい人たちなどとの交流。大江が亡くなった今、読者に向けて綴られた心優しい「親密な手紙」のようにも思えてくる。四章で中断した形になっているのが惜しまれるが、老年の作家のいわゆる円熟、老成の境地を拒否して、読みつづけ、書きつづけ、反原発の集会にも参加しつづけた大きな作家だった。その作品群は、今、未来につながる課題として、読み継がれることだろう。三十代に編集・解説したという『伊丹万作エッセイ集』の文庫化に2023/11/03