内容説明
ポスト真実の政治と歴史修正主義が横行する時代に,歴史学に何ができるのか──.トランプ政権のウソ,ホロコースト否認論,白人至上主義のテロや原爆展論争などを題材に,こうした問いに答えるアクチュアルな歴史学入門.アメリカ歴史学界を牽引してきた著者による,『歴史とは何か』(E. H. カー)の現代版.
目次
第1章 空前の規模で
嘘つき
記念碑
教科書論争
記憶戦争
パブリックヒストリーと集合的記憶
第2章 歴史における真実
事実
解釈
歴史的真実とヨーロッパ中心主義
暫定的真実
第3章 歴史をめぐる政治学
エリートの歴史
最初の突破
門戸を開放する
歴史とシティズンシップ
第4章 歴史学の未来
地球の歴史
リスペクトの倫理学
読書案内
訳者あとがき
注
索引
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
浅香山三郎
20
トランプのやうな政治家の登場、引き倒される銅像など、近年の歴史をめぐる現象を背景としながら、これまでの歴史学の学知のスタイルとその批判的検討を行ふ。視座や座標軸の多様化は、歴史家の多様な隣接分野の学知への配慮により支へられる。困難な状況は逆に、一定の手続きに則つた様々な叙述の可能性をひらくことでもある。コンパクトだが示唆に富む著作。2020/08/06
さとうしん
20
「ポスト真実」や歴史修正主義の問題、西欧歴史学の方法を受け入れた、我々日本も含めた西欧以外の地域の歴史学者が、西欧歴史学の手法でもってヨーロッパ中心主義を批判しはじめたこと、著者=女性も含めたマイノリティが歴史学者になる困難などに触れ、確かに21世紀版『歴史とは何か』という印象。歴史は民主主義社会防衛の最前線に近い位置にある、歴史はアイデンティティをめぐる論争に常に再生可能な領域を提供し続けるという著者の言葉が印象深い。2019/11/01
しーふぉ
19
大学では史学科だったのでE・H・カーの歴史とは何かを入学してすぐ読んだ。その21世紀版とも言われているとのことだったけれど期待外れ。日本の教科書問題にも言及しているけれど、どこまで調べて書いたのかも怪しい。2019/11/24
風に吹かれて
18
1945年生れの著者が若き研究者や学生に贈る「歴史のすすめ」。『1962年(1862年でないことに注意せよ!)アメリカ歴史協会の会長就任演説で彼(植民地期アメリカ史研究者カール・ブライデンボウ)は「下層中産階級」出身や「外国生まれ」の学生の増加を嘆いていた。なぜなら、そうした人々の感情は、歴史学的な再構築の邪魔になることがしばしばであったからだという。』(p66)そのようなアメリカで歴史研究家として生きてきた著者(女性)は、歴史というものの意義の一つにシティズンシップ(市民権)の拡大をあげる。➡ 2020/01/11
かんがく
15
最近読んだ歴史学の本でだいたい言及されているため手に取った。文章も短く読みにくいわけではないが、論点は掴みにくかった。少数エリートのための教養でもなく、専門家による狭い趣味でもない歴史学をどのように構築していくかという問いは得られた。マイノリティからの視点と、地球規模の視点の重要性。2021/03/21