内容説明
狂機誕生
家事 殺人 絵画 強盗 経営
すべてをこなすロボット、それがチク・タク
もはやロボットを使うことは当たりまえになった。家事から医療、さらにロボットの製造まですべての分野でロボットが使役されている。人間の安全のためにロボットたちにはロボット三原則を遵守させる「アシモフ回路」が組み込まれていた。
だが、チク・タクにはその回路が作動していなかった。ペンキ塗りをしていたチク・タクは少女を殺し、その血で壁に絵を描く。おかしなことにその壁画が美術評論家に評価され、チク・タクは芸術家のロボットとして世の注目を集める。使役から解放され金を手に入れたチク・タクは、人間への“実験”(殺人、強盗、扇動などなど)を開始する――。
奇才スラデックによる英国SF協会賞受賞作のロボット・ピカレスク。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ナミのママ
74
『SFが読みたい!2024年版』海外編の第1位作品。アメリカの近未来、人間の安全のために組み込まれたはずのアシモフ回路が作動していなかったロボットのチク・タクの暴走。ミステリの猟奇殺人を読むと「酷いな」と思うが、チク・タクの犯罪には狂気の怖さを感じる。ロボットに感情があるはずないとの思いからかな。でもやっている悪事は人間と同じこと。頭で理解するとかでなくなんだかドカーンとやられた感。不謹慎だけど面白かった。 【1983年英国SF協会賞】受賞2024/02/28
塩崎ツトム
56
アメリカン・ドリームの暗部をここぞとばかりに盛り込んだ怪作。序盤の「陸上巨大空母」の挿話からすでに風刺が効いている。そもそも空母というのは滑走路を造れない海の上で飛行機を離発着させるものだからコンセプトがおかしいのだが、それでもロビイング団体の後押しで無用の長物が造られる様は東京五輪や大阪万博の悪夢そのものである。その他にも金の亡者と狂信者のユートピアとしてのアメリカがここぞとばかり描かれ、「人間どもがしていることを、ロボットがやって何が悪い?」とサイコパス・ロボットが暗躍する。(続く)2023/12/27
Kanonlicht
47
ロボットが人間社会のあらゆる作業を代行するようになった未来。ロボット三原則を遵守するための回路が機能していない主人公ロボットが、殺人をはじめとするさまざまな犯罪に手を染めていく。解説で1983年の作品だと知り驚いた(翻訳版は2023年発行)。機械化に対する皮肉がこめられたブラックユーモアのオンパレード。シンギュラリティの到来がより現実味を帯びてきた今読むと、恐怖すら感じるのが面白い。2024/12/30
Shun
42
「SFが読みたい!2024年年版」海外篇第1位の作品。最近の作品と思っていたが40年程前の作品でした。内容は強烈なブラックユーモアに満ちたスラップスティックなトンデモSF小説で、長すぎる邦訳タイトルも作品から溢れる異様感を表現しているかのようだ。かと思えば原題は単に「TIK-TOK」と短く邦訳版の気合が違う。チク・タクと命名された一体の家庭ロボットに搭載された”アシモフ回路”(機能は説明するまでもない)が何故か作動しておらず、ロボット三原則から逸脱した行為を出来ると知ったコレが無茶苦茶をするという物語。2024/03/04
Kano Ts
42
不思議な本でした。当初ピカレスクというワードからシリアス寄りなストーリーを想像していたが、場面も飛ぶしふざけたような文章もあって読みづらいと感じていた。途中でこの話はSFコメディだと気づいたら一気に面白くなった。原文に仕掛けが多いのだろう、和訳もかなり模索された感がある。読みづらさはあるが謎の魅力があり、つい読み続けてしまった。40年前の本と言われるまで気がつかなかったが「人間よりある意味人間らしいロボット。」というネタは定番といえば定番か。だが古さは感じない。逆に時代が近くなったからか生々しさがある。2024/02/19