内容説明
「わたしたちの過去も現在も未来も写しとられている。恐るべき傑作だ」(解説より) 翻訳家 鴻巣友季子
「最初のひとりがいなくなったのはお祭りの四日後、七月最初の木曜日のことだった」――
ここは〈始まりの町〉。物語の語り手は四人――初等科に通う十三歳のトゥーレ、なまけ者のマリ、鳥打ち帽の葉巻屋、窟の魔術師。彼らが知る、彼らだけの真実を繋ぎ合わせたとき、消えた人間のゆくえと町が隠し持つ秘密が明らかになる。人のなし得る奇跡とはなにか――。
社会派エンターテインメントで最注目の作家が描く、現代の黙示録!
高知市の「TSUTAYA中万々店」書店員、山中由貴さんが、お客様に「どうしても読んで欲しい」1冊に授与する賞、第4回山中賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
そる
245
ディストピアです。読んでてだんだん陰鬱になってくる。羽虫を虐げることで自分を保っていたけれど結局元々の住民も巻き込まれていく。財力、権力ある方が優位で貧富の差にもなる。この世界は現代社会と同じ。そうなる前に声を出して行動して、それを次世代にも伝えて抗うことをし続けなきゃいけなかった。1人で無理でも大勢なら動かせたはず。諦めちゃダメだ、と考えさせられる話。「機械に乗っているのは、なんと人間だった。人間が、男も女も子供も年寄りもひとしなみに焼き殺している。どんな理由があれば、人が人にこんなことができるのか。」2024/01/11
KAZOO
118
テレビドラマの「相棒」の脚本などを書かれていてかなり硬派な作品をものにしておられる太田さんが、かなり今までとは異なる感じの作品を書き上げられました。ある意味ディストピア小説(オーウェルの「1984年」やハックスリーの「素晴らしい新世界」を目指したもの)で架空の世界の状況を4人の眼から様々な事件を描いています。今後の日本の方向性をエッセンスだけ取り出して物語化したとしか考えられません。評価は分かれると思いますが私は楽しみました。2023/09/05
のり
88
祭りの華やいだ日を境に「始まりの町」は変わっていった。移民に対して「羽虫」と蔑む人々。様々な立場で思惑が異なる。人々は考える事を止めたら、それは滅びの始まりである。独裁者の世襲。疑問にも思わない。世を正そうとする者は志し半ばで消される。全てを理解し、世の中の儚さを抱きながらも、新天地で「魔術師」の安寧を祈る。過去・現在・未来にもある悲劇。断ち切らねばならない。2024/01/18
ぼっちゃん
60
どの時代のどこの国の話かも分からなく、ファンタジー的な感じはするが、考えず、声も上げず、流されたままだとこんな世界になってしまうと今の世の中を諷刺した小説であった。2023/10/14
ま~くん
57
犯罪者、幻夏、天上の葦は貪るように読んだ。凄い作家が出てきたと勝手に思っていた。その太田愛の新作がやっと文庫化され、浮足立ったのは読書前。何が作者を変えたのか、何故路線変更してしまったのか、「新境地を切り開きましょう先生」とアホな編集者に唆されたか。個人的にこれは太田愛の作品ではない。最初に読む太田作品が本作なら楽しめていたと思う。夏祭りが終わった数日後に一人の女性が姿を消す。その真相が息子、暗い過去を背負う町の女性、葉巻屋、イカサマ魔術師達の語りによって少しずつ解明されていく内容はいい。でも何でかなー。2024/05/14