内容説明
ときは文政、ところは江戸。ある夜、中村座の座元と狂言作者、6人の役者が次の芝居の前読みに集まった。その最中、車座になった輪の真ん中に生首が転がり落ちる。しかし役者の数は変わらず、鬼が誰かを喰い殺して成り代わっているのは間違いない。一体誰が鬼なのか。かつて一世を風靡した元女形の魚之助と鳥屋を商う藤九郎は、座元に請われて鬼探しに乗り出す――。第27回中山義秀文学賞をはじめ文学賞三冠の特大デビュー作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
110
この作家さんは初めてですが、かなり歌舞伎など歴史的なところを勉強されている気がしました。澤村田之助(北森鴻の「狂乱二十四孝」に出てきます)を思わせる足の不自由な元女形とそれを助ける鳥屋(私は最初焼鳥屋かと思ってしまいまっした)の若い人物が鬼が成り代わっている人物を見つけ出すなど楽しい趣向があります。ほかの作品も読みたくなりました。2024/02/26
sin
66
「いっち怖いのは人様で、なかでも役者と云うやつは…」江戸と云う時代の歌舞伎と云う異界、その化け者揃いの役者の中に本物の化け物が紛れ込み…足を無くした元女形の魚之助は脚を勤める藤九郎におぶさって、役者に化けた鬼を炙り出す。芸の為ならと鬼畜の所業をさらけ出す鬼より怖い役者たちの誰が鬼の隠れ蓑か?その正体が証されたときタイトルの『化け者心中』が、その舞台に姿を現す。それにしても野暮な男に背負われた魚之助の恋心が物語を貫いて心に沁みる。2023/09/03
goro@80.7
52
中村座で上演される心中ものの役者の一人が鬼に成り代わった。座元から鬼捜査を依頼されたのは元女形で足を失った魚大夫と鳥屋の藤九郎。鬼は誰だとそれぞれの役者を調べるのだがだれも「鬼」のよう。人も簡単に人でないものに変わってしまう中、人と鬼を分けるものは何なのか。さらりと深い時代物でした。蝉谷めぐ実シリーズ2作目も読みたい。2024/03/09
Kanonlicht
42
足を失い舞台を降りた当代一の女形と、その足代わりを務める朴訥な鳥屋のコンビが、江戸の芝居小屋で役者になり代わった鬼探しに奔走する。犯人当てを中心にしているけれど、ミステリーというよりどちらかというと人情噺。芝居に生きる(芝居にしか生きられない)役者たちの胸の内はそもそも常人とはかけ離れていて、鬼などいなくても平生から魑魅魍魎の世界というのが面白い。ただ、現実に即しているのかファンタジーなのか終盤まで明らかにされなかったのが個人的には惜しい。2024/01/08
信兵衛
27
読む人の好み次第と思われる本作ですが、デビュー作にしてこのレベルは凄い、と思います。2023/08/27