内容説明
歴史・文化・社会的に形成される男女の差異=ジェンダー。その差別には近年批判が強く集まる。本書は、実証経済学の成果から就業、教育、歴史、結婚、出産など様々な事柄を取り上げ、格差による影響、解消後の可能性について、国際的視点から描く。議員の女性枠導入=クォータ制が、質の低下より無能な男性議員排除に がる、女性への規範が弱い国ほど高学歴女性が出産するなどエビデンスを提示。旧来の慣習や制度を問う。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆいまある
91
経済学者によるエビデンスに基づくジェンダー論。日本のようにジェンダー格差が大きい半端な先進国は出生率が低い。何故なら離婚したらいきなり経済的に困るから。北欧では稼いでる女が産んでいる。一人でも子供を養えるから。ジェンダー格差による弊害例が非常に豊富に挙げられており、バングラデシュの児童婚、中絶の権利を奪われた米国貧困黒人、アフリカ女性のHIV感染率の高さなど辛い話が多い。もういっそ男のいない国を作りたい。家事育児は女という前提を我々は捨てるべき。自分の中の差別意識を炙り出す一冊。2024/12/04
とよぽん
56
著者は経済学者。その視点から社会のジェンダーギャップの問題点を分析している。アメリカの実態や事例を多く挙げているので、日本の現状にどの程度参考になるのかと思った。しかし、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)がいかに人々の認識や判断をゆがめて、経済的にも社会的にも悪弊をもたらしてきたか、よくわかった。世界の中でジェンダーギャップ指数が低迷している日本で、都道府県別のジェンダーギャップが公表された。私が住む富山県はかなり低位であり、県庁も組織替えをしてテコ入れしようとしている。経過を注視したい。2025/04/14
とよぽん
49
再読によって新たに得ることができたのは、男女の職業分離は能力を反映してはいない、ということ。筆者は、セクハラが職業分離を加速させていると述べる。男性が多い職場の方が賃金が高く、そのような職場ほど女性がセクハラ被害を訴える可能性が高い。セクハラ被害に遭った女性ほど、その後男性が少ない職場に、より賃金が低い職場に転職していくと。こうして賃金の男女格差が拡大していく。この終章とあとがきで筆者が主張している「社会規範」や「思い込み」にもっと真正面から取り組む、ということを多くの人に試みてほしい。2025/05/18
うえぽん
47
開発ミクロ経済学の専門家が、ジェンダー格差に係る実証経済学の研究を一般向けに紹介した新書。あくまで格差是正を目的としつつ、ジェンダー専門家ではないこともあり、主義や信条をあまり交えず、淡々とした筆致で書かれており読みやすい。直感と反するエビデンスの中には、途上国での水インフラ整備が女性の労働参加を促さなかったこと、女性クォータ制導入が議員の質の低下ではなく有能でない男性議員の排除に繋がったこと、米国のジェンダー規範が弱い地域では高学歴女性の方が結婚率が高いこと等があったが、実証に基づく施策展開が望まれる。2024/06/30
たまきら
39
読み終わって、結局「データを疑え」という基本姿勢を200ページ以上にわたって読まされたのかな…と思った。非常に冷静な文体だが、それが逆に(著者は何を訴えたいのだろうか?)と疑問を持たせる。学問は生ものだ。そして、政治が簡単に介入できることが、ここ数年の状況でよくわかる。トランプ政権下で経済もDEIも文化も停滞を始めたが、こんなこと想定できただろうか。昨日久々に会ったNYタイムズなどに写真を提供している友人が、コロナ時の記事を巡りトランプ政権に訴えられたと話していた。学問が軽視される時代が来るなんて…。2025/03/16