内容説明
米澤穂信、初の警察ミステリ!
二度のミステリーランキング3冠(『満願』『王とサーカス』)と、『黒牢城』では史上初のミステリーランキング4冠を達成した米澤穂信さんが、ついに警察を舞台にした本格ミステリに乗り出しました。
余計なことは喋らない。上司から疎まれる。部下にもよい上司とは思われていない。しかし、捜査能力は卓越している。葛警部だけに見えている世界がある。
群馬県警を舞台にした新たなミステリーシリーズ始動。
群馬県警利根警察署に入った遭難の一報。現場となったスキー場に捜査員が赴くと、そこには頸動脈を刺され失血死した男性の遺体があった。犯人は一緒に遭難していた男とほぼ特定できるが、凶器が見つからない。その場所は崖の下で、しかも二人の回りの雪は踏み荒らされていず、凶器を処分することは不可能だった。犯人は何を使って“刺殺”したのか?(「崖の下」)
榛名山麓の〈きすげ回廊〉で右上腕が発見されたことを皮切りに明らかになったばらばら遺体遺棄事件。単に遺体を隠すためなら、遊歩道から見える位置に右上腕を捨てるはずはない。なぜ、犯人は死体を切り刻んだのか? (「命の恩」)
太田市の住宅街で連続放火事件が発生した。県警葛班が捜査に当てられるが、容疑者を絞り込めないうちに、犯行がぴたりと止まってしまう。犯行の動機は何か? なぜ放火は止まったのか? 犯人の姿が像を結ばず捜査は行き詰まるかに見えたが……(「可燃物」)
連続放火事件の“見えざる共通項”を探り出す表題作を始め、葛警部の鮮やかな推理が光る5編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
631
米澤 穂信は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 新シリーズ?群馬県警 葛班長連作短編集、事件も動機も渋い、オススメは、『命の恩』です。 https://books.bunshun.jp/ud/book/num/97841639172692023/09/13
青乃108号
602
5話収録の短編集。米澤穂信の初めての警察小説という事らしいが、印象としては小粒。インパクト少。面白くないわけではないが絶讚する程でもない。強いて言えば5話の「本物か」がちょっと良かったぐらい。前評判が非常に高く凄く楽しみにしていたのに、凄絶に肩透かしを食らわされた。極限までムダを削ぎ落とされた文章からは人間臭さがまるで感じられず、もしかしてAIに書かせたのでは、と思わず疑ってしまったりして。昔 あんパンに牛乳、今 菓子パンにカフェオレ。2023/10/26
パトラッシュ
600
意外なトリックや動機、凶器などは本格推理の、特に短編では重要な要素だが、現実の犯罪捜査ではあり得ないのでリアル志向の警察小説とは相性が悪い。しかし短編の名手は「ベテラン刑事の違和感」を挿入することで、両者の自然な結合を成立させた。群馬県警捜査一課の葛警部は凶器の奇妙な形状、目撃証言の矛盾、死体遺棄の不自然さ、紙に放火されない事情、非常ベル作動の遅さなど見過ごされがちな小さな疑問にこだわり、鋭い観察眼と消去法で事件の裏の意外な真相を暴く。ホームズそのものの推理を行う刑事こそが、最も意外な存在かもしれないが。2023/08/17
中原れい
572
警察ものは初とのことだが、警察側の感情表現を極力おさえたハードボイルドで読み応えしっかり。最初の話からして、主役になっている葛が思考が的確で優れた指揮をしながらも部下をとびこえ最短時間で犯人確保してしまったりするためあまり慕われていないことが語られるなど、作者の思い入れもないのがいつもどおりですごい。どの事件も単純に結果にたどり着くかに見えて被疑者にも被害者にも「ありがちな事情」でひねりが入り飽きない。作者自身が「自分が書いたけれど菓子パンとカフェオレばっかりで体に悪いと思う」とつぶやいた。まさにそれ!2023/07/31
bunmei
529
直木賞受賞した歴史時代絵巻の『黒牢城』に比べると、短編集ということもあり、淡々とした展開の中で事件解決に向かう警察ミステリー。というのも、本作の主人公の捜査第一課の葛警部の人物像にあり、現場主義の石橋を叩いて渡るような地味なタイプの主人公は、米澤作品しては珍しい。そのため個性的なキャラでもなく、印象に残るシーンも少ない。但し、どれも最後で一気に犯人逮捕に至るのだが、読者をミスリードした上で、意外性のある結末で結ぶ辺りは、流石に直木賞作家。葛警部の名推理によって、謎が解き明かされる5編が収録されている。 2023/08/25