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内容説明
アムステルダムの場末のバーでなれなれしく話しかけてきた男。彼はクラマンスという名のフランス人で、元は順風満帆な人生を送る弁護士だったが、いまでは「告解者にして裁判官」として働いているという。五日にわたる自分語りの末に明かされる、彼がこちらに話しかけてきた目的とは? 『異邦人』『ペスト』に並ぶ第3の小説、待望の新訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
41
「告解者にして裁判官」とあるが、重要なのは言うまでもなく裁判官の方だ。偽善を告白することで悪を捏造し、審級になってしまえば、あとは相手を裁くだけとなる。現在でも、少し前は政治系の討論番組で、現在ではSNSの泥試合で使われている。解説にあるように、本作のモチーフがサルトルとの間で交わされたのは政治的な立場の違いについてだというのはむべなるかな。タイトルの転落はまずは溺れる女、一人称話者クラマンス。そしてこの詐術に陥った一人称の聞き手である読者というオチが本作の持ち味だ。2024/10/12
ポテンヒット
14
この本は解説やあとがき、ネタバレ感想を最初に読まないで本文を読んだ方が数倍面白いと思う。話しかけてきた男クラマンスのいう「告解者にして裁判官」とはどういう意味なのか、彼に何があったのか、近づいてきた理由は何なのか、「転落」とは何を意味するのかを探りながら読む面白さがある。彼の人間を見据える悪魔のような冷徹さに心奥を覗き込まれた思いがして肝を冷やす。読了後に解説を読んで、カミュがこの本を書いた背景を知り唸る。2023/06/23
fseigojp
13
読書会課題本 カミュ最後の小説(未完はあるが、完結はこれが最後) 長編は、異邦人、ペストとこれだけ いかに若くして名声をえたかがわかる ちなみにノーベル文学賞の最若年受賞はキップリングで41歳、カミュは43歳で2位だ2023/08/05
てつを
6
クラマンスが誰に向けて論じているのかを明かす場面に至るまでそれを楽しみにしながら、「告解者にして裁判官」とはなんなのかを追い続けた。なかなか本題に帰ってこない語りの中にも本題と僅かに交わるテーマや論理が認められ、徐々に「告解者にして裁判官」の輪郭が掴めてくる。自らの罪を(あたかも普遍的な過ちかのように)告白することで周囲から裁かれることを避け、普遍的な過ちを告白しない罪人たちに対して裁判官の態度でいられることが、それなのかな。SNSを例に挙げる訳者あとがきが結構面白かった印象。2023/07/31
フリウリ
5
「いい人」であることを放棄し、わざと人の嫌がることを言ったりやったりする人。いつの時代にもこういう人は存在するし、自分のなかにもそのような人間性は見出しうると思えたので、主人公クラマンスの一人語り自体は、普通に読めました。「告解者にして裁判官」とは、自分の罪は進んで白状するけれど、裁けるのは自分だけ、ということと思いますが、特に最後のほうはカトリックを下敷きに話が展開されるので、非キリスト者にはピンときにくい…。なので、別に大したこと言ってないよね、と思えるのですが、どうなのでしょうか。1956刊。62024/05/29