内容説明
元・書店員の一香は、古い洋館の家事手伝いのアルバイトを始める。そこでは調香師の小川朔が、幼馴染の探偵・新城とともに、客の望む「香り」を作っていた。人並み外れた嗅覚を持ち、鼻で、相手の行動パターンや健康状態を一瞬にして嗅ぎ分ける朔は、どんな香りでも作り出すことができ、それゆえ風変わりな依頼が次々と届けられる。だが、一香は朔の近くにいるうちに、彼が天才的嗅覚を持つがゆえに深い孤独を抱えていることに気づきはじめる……。直木賞作家が紡ぎだす「香り」にまつわるドラマティックな長編小説。第6回渡辺淳一文学賞受賞作。
目次
1:Top Note
2:Floral Note
3:Chypre Note
4:Woody Note
5:Spicy Note
6:Citrus Note
7:Animal Note
8:Last Note
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tenori
116
読んでいて、物語の映像が浮かび上がってくる小説。それに加えて香りまで添えてくるあたり、千早流の真骨頂。嘘を体臭から察知するほど特異な嗅覚ゆえネグレクトを受けた過去を持つ天才的な調香士・朔と、引きこもりの兄の自殺を止めることができなかったことで自分の感情を押し殺して生きる主人公・一香。孤高の香りを求める人々との関わりの中で、互いに潜ませた闇を紐解いた先の結末。四季おりおりの植物の描写や脇を固める登場人物たちのキャラクター設定も秀逸で、決して劇的とは言えない着地点も含めて読後感の良い小説。2023/07/17
エドワード
116
あらゆる匂いを作ることの出来る調香師、小川朔。調香師が主人公の小説は時々あるね。眼に見えない<透明な>人や物の痕跡である香り。その神秘的で耽美的な特徴が文学の源泉となるのだろう。あらゆる匂いを感じてしまう朔の生き辛さ。もう一人の主人公、朔の洋館で働く若宮一香にも謎がある。訳ありの家族。独り暮らしで書店員のバイト中に動けなくなる。朔と働くうちに、徐々に生命力を取り戻していく。嘘やストレスや自律神経の乱れも匂うというから不思議だ。香りは遠い記憶をも呼び覚ます。一香の記憶とは?解説が小川洋子さん、一択の人選。2023/05/25
ゆいまある
100
町外れの古い大きな洋館。浮世離れした天才調香師が暮らしている。庭師の老人源さんのキャラもベタ過ぎる。50年前の少女マンガかよ。りぼんかよ。なかよしかよ。天才調香師の手伝いを始めるメンタル不調な主人公。ヒキなのに家事の手際よすぎ。調香師からの厳格すぎる指示を守るうち、健康を取り戻し、やがて調香師の道具のひとつになってしまいたいというマゾヒスティックな願望を持つに至る。抑圧された性愛がどう成長するのかと思いきや、ラストそう来るの。依頼人のトラブルを香りで解決するミステリ要素あり、読みやすいし続編欲しい。2023/12/31
りゅう☆
98
調香師朔の家で家事手伝いのバイトを始めた一香。幼馴染の新城の探偵業を手伝いながら客の希望の香りを作る朔。人並外れた嗅覚を持ち、嘘をつく時などのどんな香りでも嗅ぎ分ける。不倫相手の香りを欲する女、死が迫ってる人、障害を持つ子への香り。どんな香りも作れるけど、こんなに香りが入ってくると苦しいな。そして一香が心の闇と向かい合えるために作った香りの結果、変化が苦手な朔が知らない変化に気付けた時、優しい思いがした。鋭い嗅覚を持つが故の朔の苦しさや孤独に切なさもあったがミステリさあり、源さんや新城との信頼関係がいい。2023/07/03
ちえり
88
初読み作家さん。読みやすくて面白かった。天才調香師とその幼馴染の探偵、家政婦兼事務員。刑事、庭師、元同僚、大家、いろんな人がそれぞれの闇を抱えていて。ミステリーだとよくあるパターンだけど、これはミステリーじゃないところが、また良し!こんな警察犬もびっくりの嗅覚を持っていたら事件に首突っ込んで警察に協力したりするのかと思えばそうでもなし(笑)読んでるうちに、これはドラマ化されそうだなぁ、なんて思いました。2023/05/31
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