内容説明
ベルリンで同性の恋人を殺した陳天宏は、刑期を終えて台湾の永靖に戻って来る。折しも中元節を迎えていた故郷では、死者の霊も舞い戻る。天宏の6人の姉と兄、両親や近隣の住民。生者と死者が台湾現代史と共に生の苦悩を語る、台湾文学賞、金鼎賞受賞の長篇
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
泰然
44
台湾の辺境の土俗習俗、暴力連鎖と心の傷、中元節の鬼・幽霊への畏怖より人間の闇の奥がより恐怖なのを語り、泣き崩れる。内向きな世界、ベルリンの風、白色テロを変数に、性的少数派の視点を通して見る「鬼の住む世界」。本書には不謹慎な苦笑を誘うような内容が描写されるが、これは暗喩のトリックであることに注意すべきだろう。悲劇に囚われるままの人間、殺しても死なない人間、台湾の歴史、主人公と家族の秘密が融合しながら世界の縮図になり、ハッと気付かさせる。誰もが自由に自分のため泳ぎたいが、亡霊の地に実は今も縛られていることに。2023/08/11
ヘラジカ
44
精神的に余裕のないときに読んだのもあって中々にしんどい読書だった。しかし、この暗鬱な空気を描出する筆力には驚かされる。非常にプライベートな物語だからこそ、人間という存在が如何に広大無辺の闇を抱えているかが表されていると感じた。中国文学特有ではあるが、名前を覚えるのに苦労して関係を追うのにも難儀した。”高熱のときに観るホラー映画”くらいタイミング的には辛いものがあったので、いつか時間があるときに再読したい。2023/05/29
スイ
20
おっっっっっもしろかった!!! 台湾のある家族の末っ子が、ドイツで同性の恋人を殺して服役した後に帰って来る。 帰って来る、のだけど末っ子だけでなく他の家族の語りがガシガシ入って、冒頭で最寄駅辺りにはいるはずなのに全然家に着かない。 最初は視点があっちこっちに行くので困惑したが、渦が中心に向かって巻いていくように、次第にそれらの語りが繋がっていき、家族の過去に隠されたものが見えて来る。 途中からはのめり込んで読んでいた。 超自然的なところもありつつも、様々な差別や偏見も織り込まれ、とてもリアルな2023/09/05
ROOM 237
18
台湾文学を読むのは2冊目だが中元節を筆頭に祭祀が非常に多く、幽霊の存在を当然とする地という印象が更に深まった。生者も幽霊も入り混じって語られる物語は家事動線の一部かのような流れで不意にお祓いが行われ、それがより親族や近隣との結束を強くがんじがらめにしている。そうした近隣同士での婚姻を筆頭に、行き場のない田舎で膿が破裂するかのように、陰湿で小さな事件や破壊的自然災害が度々起こりどうして耐えられようか?曰く「幽霊になるのは実にいいわよ。」この地ではそうかもしれない。2023/06/29
フランソワーズ
14
台湾の片田舎、永靖。鬼地方=荒涼とした、ひどいところ。そこを舞台に四姉妹、二兄弟の陳家と、ホワイトハウスと呼ばれる豪勢な邸宅を建てた権勢家王家を中心にした群像劇。台湾ではあるが中国の大陸的な豪放磊落ともいえる人物たちは戯画化されていて、滑稽であり、どこか哀しい。時系列を無視して、章立てされたこの小説、一つ一つが短編としても楽しめる(「1984年のマックフライドポテト」は特に好い)。2023/07/09




