内容説明
「小さな黒いノート」に記録された実生活の断片
『分解する』『ほとんど記憶のない女』につづく、「アメリカ文学の静かな巨人」の3作目の短編集。内容もジャンルも形式も長さも何もかもが多様なまま自在に紡がれることばたちは、軽やかに、鋭敏に「小説」の結構を越えていく。作家が触れた本から生まれたミニマルな表題作「サミュエル・ジョンソンが怒っている」をはじめ、肌身離さず作家が持ち歩くという「小さな黒いノート」から立ち現れたとおぼしき作品など、鋭くも愛おしい56篇を収録。
「それらはいわば、彼女という人の「自分観察日誌」だ。[…]結晶となった言葉は硬く乾いてひんやりとして、元の感情からは慎重に隔てられているように見えて、目を凝らしてみると、行間から血のしたたるような感情が、生の痕跡が、透けて見える」(「訳者あとがき」より)。強靭な知性に支えられた作家の本領を味わえる1冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さぶろうの領土
4
私は文中に【サミュエル・ジョンソン】という字面が出てくると興奮する変態なので、この本は完全にタイトル買いしたのだけど、買って正解だった。著者は自身の内省的なモノに対する解像度が、とてつもなく高いんだろうと思う。読んでいてそう感じていた。たぶん著者の作品を読んだ事がある人ならわかってもらえると思う。なんで自分はこういう感情になったんだろう、とか。なんであの人はこういう行動をしたんだろう、とか。そういった事を深く追求している人でないと、こういった作品は書けないだろうと思う。サバサバした文章も良い。2023/04/02
natsumi
4
多種多様なエッセンスで溢れる作品集。何かが間違った輝きを放つマリー・キュリーのインスタレーション的伝記があるかと思えば、急にきみまろの漫談みたいな夫婦・家族あるあるがぽんと出現する。めちゃくちゃクールで鋭いのに、自己との気取りのない距離感、ギャグセンスが本当に絶妙だと思う。底知れないぜリディア・デイヴィス〜2023/03/28
いなお
3
とても楽しい本だった、ほとんど記憶のない女から変わらずユニーク2024/04/19
ざじ
3
著者の視界に入った事象がどこまでも解像度を高められ、時に歪んでいく様子を活字で読む幸福を味わうことができる 文字数が少なければ少ないほどクールさを感じる2024/01/31
ふゆきち
1
形式が自由になるにつれ、題材は日常生活を切り取ったものが増えてきたように思えます。わざと変な文章で書かれたマリー・キュリーの伝記が妙に詩的で好きです。2023/04/12