内容説明
ベルリンで一人暮らしをする美砂は、隣人Mさんに誘われて太極拳学校へ。様々な文化的背景をもつ人々との出会い、第2次大戦前後のドイツと日本の歴史、国からの追放、女性の目から見た名作の読み直し、世界文学の旗手による初の新聞連載小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
297
初出は朝日新聞への連載(2022年2月1日から8月14日)。タイトルの「白鶴亮翅」は、太極拳の技の一つ。現在はベルリンで一人暮らしをするミサの一人称語りで進行する。基本的には彼女の日常が語られているのだが、時として幻影めいたものが現れたり、家電器具が怪しげな関西弁で話しかけたりもする。また、作品に登場する人物たちはミサを含めて、すべからく越境者である点に特質を持つ。逆に言えば、異郷に居ることにおいてこそ、自己が拠り所のない存在として社会に対峙できるのかも知れない。デラシネの多和田葉子にしてこそ語りえた⇒2025/05/03
starbro
209
多和田 葉子、4作目です。ドイツで暮らす著者の初の新聞連載&私小説的な物語でした。しかしながら、オチがないような気がしたので、この物語はまだ続くのでしょうか❓ ドイツで、「魔女の一撃」という表現が、「ぎっくり腰」の事だと初めて知りました。 https://www.asahi.com/articles/ASQ9P62XGQ9LUCVL019.html2023/05/26
どんぐり
88
朝日新聞連載小説。白い鶴が翼をパッと広げる太極拳の型「はっかくりょうし」が表題。ベルリンのクロイツベルク地区に住むMisaの日常を描いている。異国の地で出会った隣人のMさん、日本に帰国した早瀬、太極拳教室のチェン先生など、日本人の女性が異文化と接するなかで出合うさまざまな出来事が彼らとの交流とともに進んでゆく。物語はあってないようなもの。その多くは、言語と文化のひだに触れる言葉の遊びだ。姨捨山の姨の字には誇りと強さと謎がある「姥捨てなかった伝説」、→2024/10/22
榊原 香織
79
ドイツで一人暮らしの日本女性が、ひょんなことから太極拳を始める(題名は太極拳の一つの技です) 面白い。ドイツて濃い人が多いのかな。とてもインターナショナル。 隣人とこんな会話するのかな、と不思議だが、ドイツ語ならありかとも思える。日常にさらりと不思議が混じるのもこの人らしい2023/06/05
ネギっ子gen
75
【書くというのは文字を生み出すことで、これほど心を満たしてくれる行為はなかった】『朝日新聞』に連載中に既読だが、まとめて読むと実に面白い本でした。題名に引きずられ幽幻の地を彷徨うが如き感覚というか――。帰国した夫と別れ、ベルリンで一人暮らしをする翻訳家・美砂は、隣人Mさんに誘われ太極拳学校へ。<翻訳作業のいいところは、自分の頭の中がからっぽに感じられる日でも、自分の好きな作者の書いた文章はそこにあり、それを消化して、たとえ消化しきれなくても、とりあえず自分の文章にして書くことができることかもしれない>。⇒2023/10/11