内容説明
就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブリと暮らすうち、日本で培った常識は剥がれ、身体感覚までもが変わっていく……。言葉とはなにか? そして幸福、自由とはなにか? ムラブリ語研究をとおしてたどり着いた答えとは……? 人間と言葉の新たな可能性を拓く、異端の言語学ノンフィクション。
目次
第1章 就活から逃走した学生、「森の人」に出会う
第2章 駆け出し言語学者、「森の人」と家族になる
第3章 ムラブリ語の世界
第4章 ムラブリの生き方
第5章 映画がつなぐムラブリ、言語がつなぐ人間
第6章 ムラブリの身体性を持った日本人
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mae.dat
253
言語研究として、ムラブリ語を調べる為に、タイ、ラオスの森にフィールドワークに赴き、ムラブリの生活に傾向して行く著者のお話。と言うと抽出し過ぎかな。中2病を患っていた頃、社会システムに疑問を抱き、疑念を感じましたねぇ。誰もが多かれ少なかれ通る道なのでしょうか。儂は「人間社会で生物ヒトとして生きる」をテーマに掲げ、ある距離感で折り合う術を身に付けた積もりと成りましたが。もっと野生のヒトとして生きるには、森での暮らしに答えが隠されているのかも。今の生活に疑問を感じる方には、何かしらのヒントがあるかも知れませぬ。2023/04/26
trazom
129
タイ・ラオス山岳地帯の少数民族ムラブリと暮らしながら、文字がなく、絶滅に瀕した危機言語であるムラブリ語を研究するフィールド言語学者のルポ。ムラブリの生き様が現代人の我々に問いかけてくる:感情を表すことがないムラブリ。暦もなく、過去・未来への拘りもなく、「明日、空いてる?」にも「イオーイ(わからない)」。所有に拘らず「持つ」と「いる/ある」が同じ言葉であるムラブリ語。自由を愛し、他人に認めてもらうこととは無縁の幸福。ムラブリを愛し、褌を締めて彼らと生活を共にする若き言語学者の姿に心が熱くなるユニークな一冊。2023/05/10
コットン
71
言語学者がタイとラオスの少数民族ムラブリの言語を調査した一般向けの本。まず、世界の言語の約42%が文字を持たないことに驚かされる。ムラブリの言語の話も面白いが、ムラブリのシンプルな価値観のスッキリした所が今の日本人などと比べてどっちがいいのだろう!と感じてしまう。2023/09/23
けんとまん1007
64
世界で言語の数は6000~7000というのは知っていた。ここで取り上げられているムラブリ語もその一つ。言語を巡るというよりは、その先にある、ムラブリという生き方そのもののに近づいていく過程、気づく過程が興味深い。確かに、言語は、ものの考え方・生活様式・文化が色濃く表れるものだと思う。さらに、著者の生き方そのものも興味深い。今の時代の中で、これをどう読み解いていくかは、自分自身のテーマになる。2023/08/26
seacalf
57
文字を持たない狩猟民族ムラブリ。我々とはあまりにも違う生き方を知るにつれ、これまで当たり前に生きてきた固定概念を覆してくれる爽快さを得られる。興味深い内容はたっぷりあるが、その中でも著者が言うムラブリ語を話せるようになったのは語や文法を記憶だけでなく、ムラブリという型で、これまで積み重ねられた経験のアーカイブ、ムラブリの身体性にアクセスすることに慣れたからだというのがとても印象的だった。今後の言語学習にも活用できるかしら。自分らしさと自由と求めて勇往邁進す著者の此先の活躍に注目したい。2024/03/03