内容説明
謎に包まれたロシアの民間軍事会社ワグネルの元司令官による初の手記。内部を知る著者が、傭兵に課せられた沈黙を破って実情を語る。その狙いは何か。軍事・国際政治・ロシア情勢に関心のある人必読の書。小泉悠氏の監訳・解説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
105
ウクライナ戦争ではロシアの民間軍事会社ワグネルが悪名を馳せているが、その一員としてシリアで戦った男の戦記には「国を背負わない兵士の戦争」の生々しい実態が描かれている。無能なシリア国軍に足を引っ張られながら、ISとの血で血を洗う戦闘に明け暮れる日々。味方のはずのロシア正規軍には見下され、ろくに補給も受けられず惨めな暮らしを強いられる。しかも戦功はすべてクレムリンと軍のものとされ、犠牲者には僅かな報奨金が出るだけだ。プーチンに使い捨てにされていると知りながら、戦場でしか生きられない不器用な男の生き様が哀しい。2023/03/19
kan
32
ワグネルの戦闘の様子が一傭兵の体験を通じて浮かび上がり、とても興味深く読んだ。正規軍と異なり戦死者数の公表や恩給の必要もなく、便利に使えて責任も負わず法律にも縛られない幽霊会社の幽霊兵士の奮闘の記録で、シリア内戦介入の日々が詳細に綴られる。ワグネルの幹部の実態が描かれるわけではなく、むしろ著者のロシア正規軍やシリア軍への軽蔑心と、自らの生き方や戦い方の誇り高さが印象に残った。よく自叙伝がロシアで出版されたと感心するが、この人はロシアに二度と入国できないだろうし、他国に住んでも危険だろうなと思った。2023/07/31
紙狸
23
2023年2月発行。この本の著者はワグネルの戦闘員としてシリアで戦った。フランスのドキュメンタリー映画制作者のインタビューに答えた→ロシア語で体験記を出版した→仏語版が出た。という経緯があったようだ。この日本語版は、仏語版が底本で、ロシア語版も参照して監修された。著者はもともとロシア正規軍の軍人で、トルストイ『セヴァストポリ物語』を読むといった教養がある。小泉氏の解説によれば、ワグネルの実態は詳しいことはわからない。複数の傭兵グループと経済利権グループの「ネットワーク」だという見方も出ているという。2023/05/09
Katsuto Yoshinaga
13
“ウクライナの非ナチ化”を旗印にウクライナに侵攻したプーチンが、何故ヒトラーが好んだ作曲家の名を冠したPMCと蜜月関係にあるのか疑問だった。ワグネルとは、元GRUのドミトリー・ウトキン中佐のコードネームにちなむ。では、なぜワグネルなのかというと、ロシアにはキリスト教以前の古い信仰への回帰を願う汎スラブ主義が台頭・流行し、その信奉者はドイツの民族主義の影響が強く、ナチへの憧れと極右思想を標榜するケースが少なくないようである。映画ワグネルの制作者による本書の序文で、以上のことがわかる(コメに続く)2023/05/01
フク
10
#読了 元社員によるノンフィクション。入社から退職まで。主にシリアの戦場の手記といった感じ。現地兵への愚痴多め。 都合よく傭兵たちを使う上層部に対しての憤りを強く感じた。 〈われわれは幽霊、この戦争の亡霊なのだ〉 図書館2023/10/18