内容説明
娘を殺した男がすぐ目の前にいる。贖罪や反省の思いなど微塵も窺えないふてぶてしい態度で。
東京に住む保阪宗佑は、娘を暴漢に殺された。妊娠中だった娘を含む四人を惨殺し、死刑判決に「サンキュー」と高笑いした犯人。牧師である宗佑は、受刑者の精神的救済をする教誨師として犯人と対面できないかと模索する。今までは人を救うために祈ってきたのに、犯人を地獄へ突き落としたい。煩悶する宗佑と、罪の意識のかけらもない犯人。死刑執行の日が迫るなか、二人の対話が始まる。動機なき殺人の闇に迫る、重厚な人間ドラマの書き手・薬丸岳の新たな到達点。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
404
薬丸 岳は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。著者らしい骨太の慟哭のミステリ、読み応えがありました。しかし死刑囚を担当する教誨師は、凄まじく大変な仕事です。本書を読んでも、私の死刑存置派は変わりません。https://www.kadokawa.co.jp/product/322009000359/2023/06/08
パトラッシュ
334
菊池寛『ある抗議書』を思い出す。凶悪殺人者が刑務所で教誨を受けて信仰に目覚め、罪を悔いて幸福な死を迎えたと知った遺族が、被害者の魂が浮かばれないと抗議文を提出する話だ。娘を惨殺された牧師が事実を隠して拘置所の教誨師になり、殺人犯と対話を重ねていく。表向きは死刑囚となった男を救うためだが、実際は『ある抗議書』の主人公が熱望したように恨みの一撃を与えるために。娘の死に様を教えられるなど苦しみに苛まれるが、心から改心した犯人に絶望の真実を告げられなかった。暗い深淵に一条の光を見つけたら、人はすがってしまうのか。2023/06/06
のぶ
240
多くの方がレビューに書いていますが、重たい内容ですね。しかし薬丸さんらしい作品です。主人公の保阪宗佑は牧師で、拘置所の教誨師をしている。そんな彼が娘を暴漢に殺された。犯人の石原は妊娠中だった娘を含む四人を惨殺し、死刑判決にも反省の態度を見せない。被害者の父と教誨師としての立場で葛藤が繰り返される。そして犯人と対面し復讐を試みようとする。小説でなければ起こり得ない設定だが、面白く読みごたえがあった。聖職者の保坂が決して清廉でも強い人物でもないところが話を盛り上げていた。宗佑は教誨師の務めを果たしたと思う。2023/05/10
kotetsupatapata
230
星★★★★☆ この本を読むまで小生は、確定死刑囚は期間を置かず粛々と刑を執行すべきというスタンスでした。今作も石原のようなクズは、弁解の余地無く早期に執行すべきと思っていましたが、彼を取り巻く刑務官や被害者の父でもある教誨師、更に本人の心情を絡め取っていく中で、今までの死刑に関する小生の考えは、全く傷つかない立ち位置にいる者の言い分なのではと思うようになりました。 被害者遺族でも無く、刑の執行に携わる刑務官でも無い者が正解を導きだせるような簡単な問いでは無い事を知らしめた一冊でした。2023/08/10
うっちー
226
死刑制度を含めいろいろ考えさせられる問題でした2023/06/06