内容説明
読み書き障害でも読みやすいフォントが生まれるまでのノンフィクション!
UDデジタル教科書体の完成から3年が経った頃、私は仕事の関係で、障害のある子どもの教育や就労を支援している会社を訪れました。
そこでは発達障害、学習障害、ダウン症といったさまざまな困難を抱える子どもたちを支援する学習教室を運営していたのですが、あるベテランの女性スタッフの方が、こんな話をしてくれました。
「うちの教室に、ディスレクシアの小学生の男の子がいるんです。その子は普通の本や教科書では文字がうまく読めなくて、『どうせおれには無理だから』って、いつも途中で読むのを諦めていたんです」
「それで、あるときUDデジタル教科書体のことを知って、試しに教材のフォントを変えてみたんです。そしたら教材を見た瞬間、その子が『これなら読める! おれ、バカじゃなかったんだ!』って。暗かった顔がぱあっと明るくなって、その顔を見たとき、私、思わず涙がこみあげてきてしまって。その場にいたスタッフ皆、今まで男の子が悔しい思いをしてきたのを知っていたから。みんなで男の子の周りに集まって、泣いてしまいました」
(「はじめに」より抜粋)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
けんとまん1007
107
障害は、人ではなく、社会にある。始めのほうに書かれている、この一文が五感に響いた。ついつい忘れてしまう言葉。ユニーバサルデザインとは、どういうことなのかを考える。合理的配慮ということを、最近、改めて考える時間もあった。合理的配慮を特別な対応とせず、ユニーバサルデザインとして進めること。それが、それ以外の人にとっても意味が大きいということ。フォントを創ることは、以前、別の本で読むことがあった。何を思い続けるかということの大切さ。さっそく、このフォントを使ってみた。なるほどと納得する自分がいる。2023/11/18
☆よいこ
100
分類007。書体デザイナーのお仕事本▽大学でビットマップの書体を卒業制作に選んだ著者は、書体デザイン会社に就職した。ワープロの普及とともにビットマップバブルが到来し、書体デザイナーとして腕を磨く。ユニバーサルデザイン(UD)フォントに出会いその必要性を感じ、「UDデジタル教科書体」の開発に力を注ぐ▽ディスレクシアについての理解は、日本は外国より30年は遅れている。確かに疑いのある児童生徒は多いのに診断もできず対策もできていないと感じます。学校プリントは全部UDフォントにしましょう。2023/11/27
がらくたどん
88
通称「読書バリアフリー法」策定からもう4年。まだ4年。私が読書施設に入職したころはまだ電子書籍の普及もなくロービジョンの利用者さんの墨字読書体験は拡大読書器が主流だった。当時の自分には「活字」によって読む事への抵抗が相当に軽減されるという発想もなかった。本書は一般的な明朝・ゴシックや教科書書体が読みにくい特性のために「理解力がない」と誤解されて来た子ども達のために「読める」書体を作ってみようと考えた人々の奮闘記。専門的な書体開発の技術開発物語も興味深いが何より社会が特性を障害化する側面を再認できる。良作2023/08/30
ムーミン
66
書体に限らず、デザインという営みに込められた思いの深さを知り、意識が変わりました。2023/06/01
ぶんこ
64
パソコン上でのみ気にしていたフォント。その作成が、ここまで大変だとは思ってもいませんでした。ディスレクシアは知っていましたが、ロービジョンは初めて知りました。ディスレクシアの方に読みやすい?フォントで読みやすい、読みにくいがあるのか?すると、障害のある人が文字のはらいが怖いというのにびっくり。この本がUDデジタル教科書体フォントで印刷されていることも気づかず、他の方の感想を拝見して見直してみました。私も重度の老眼ですが、とても読みやすかったので、何故と思ったら「文字が濃い」著者の挫けない強い執念に感動。2023/10/03
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