内容説明
物語は終わる。けれど、人生は続いていく。
少年時代を過ごし、父母を見送った愛媛県新居浜市の家、劇団「第三舞台」を立ち上げた早稲田大学・大隈講堂裏。
かけがえのない〈場所〉を通して人生の物語を描く、初の自伝小説集!
・「愛媛県新居浜市上原一丁目三番地」
家族の家がなくなる前夜、僕はこの家の物語を書き始めた。
今から五十四年前に始まった、緑の家の物語を。
・「東京都新宿区早稲田鶴巻町大隈講堂裏」
大学二年の四月、大隈講堂の裏広場に通じる鉄扉を押した。
愛媛から出てきた無名の二十歳の若者が、何者かになるために。
・「東京都杉並区××二丁目四番地」
演劇を仕事にして四十年。六十三歳の僕は、
終の住処になるかもしれない家で、次の物語を書き始める。
作家・鴻上尚史の原点とともに、一つの時代を描く傑作小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆのん
66
大抵の人は人生の節目で住まいが変わるのではないか。著者も実家、大学生時代の家、現在の家と住む場所が変わっている。中でも実家というものには格別の愛情を抱いているのが分かる。その強い想いには亡き母への愛情故というのが泣かせる。大学生時代には本格的に劇団活動が始まり、現在の舞台への熱意が構築されていく経緯が伺える。また、両親の影響もあるのか理不尽な事に立ち向かう姿は勇気を貰える。今では絶対に出来ないような事が出来ていた当時はある意味良き時代だったなぁと思った。家が変わっても大切な思い出は終わる事なく続いてゆく。2023/04/14
nonpono
51
今は岩手の黒沢。積んでいた電子書籍、鴻上さんの自伝。鴻上さんといえば90年代から大人気な第三舞台の主宰。1回、舞台の当日券を友と2人で鬼電したらとれました。わたしは中学、高校と6年間、演劇部。本書にもありますが、お芝居を作るって大変なんですよ。明らかな才能の差、うずまく人間関係。「演劇は、人間を一皮剥いて、その人の本質を露わにする力があるんだと気づいて虜になった」、麻薬みたいなものですね。また、本書は家の、家族のお話です。お葬式の決めなくてはならないことの煩雑さ、実家じまい。失ってからわかる尊さですね。2024/10/10
Roko
35
鴻上さんが、これまでの人生を過ごしてきた場所のことを語ります。生まれ育った場所、演劇を仕事とするきっかけとなった大学、そして今住んでいる家。鴻上さんはずっと、理不尽なことと戦い続けてきたんだなということがよくわかります。でもそんなことよりも「コロナによって舞台を続けることができなくなった」ことが、一番ツライ出来事だったというのは、とても悲しいです。 いろんなものを失くしたけれど、鴻上さんはきっと力強く生きて行く方だと思います。だって演劇の火を消すことはできないのですから。#NetGalleyJP2023/03/27
一笑
25
鴻上尚史という名前は知らなかったけれどネットで見たらテレビにもよく出ている人だった。鴻上さんの自伝的小説。筒井真理子さんや山下裕子さんなど今も頑張っている俳優さんがたくさん登場してきた。主に早稲田大学での演劇活動の話が主流だけれど、その中にも両親との関係や徐々に年老いていく様子、死についても詳しく描かれておりとても良かった。忙しくても本当に両親を大切にしたんだなと思った。自分自身の中学校・高校・大学生活と比較して、ここまでやらないと演劇界で成功するのは難しいんだと思った。なかなか普通の人には真似できない。2024/11/14
tom
23
新居浜で5年暮らしたことがある。これが理由で借りてきた。冒頭は高校までの生活。愛媛県の教師たち、権力に忠実なハチ公ばかり。そうだったなと、私の経験から同意する。そして、ハチ公の裏をかいて、やりたいことをする著者、親の背中を見て育ったのだと思う。次は大学生活、ここでようやく著者が演出家だと気づく。ここからは八面六腑、読みながら演出家の仕事はすごい、観客に受け入れられる喜び・・そうなのかと・・・。とても迫力があって、熱中して読む。ここに至って、著者を人生相談のコラムで読んだことがあると気づいた。良書でした。2024/12/17