内容説明
分離独立運動はジハードなのか?
仏教徒が多数を占めるタイにおいてマレー系イスラーム教徒が多く住む深南部。
複雑な政治的・宗教的状況のなか、「サラフィー主義」とその教育が「マレー・ナショナリズム」の影響力を相対化しているといわれる状況を、フィールドワークをふまえて分析する。
目次
はじめに――イスラームへの回帰は何を変えたのか
第1章 タイ・ムスリムの創造
1 ケーク(客)としてのムスリム
2 南部国境県の統治
3 パタニ・マレーの抵抗運動
第2章 イスラーム伝統派と改革派
1 ナショナリズムとイスラーム
2 イスラームにおける伝統と改革
3 サラフィー主義は過激主義なのか
第3章 イスラームの管理統制とその限界
1 タイ王国のイスラーム指導者チュラーラーチャモントリー
2 イスラーム法の適用とダト・ユティタム
3 イスラーム知識人による「見解」
第4章 ポーノから学校へ――イスラーム改革派と教育の近代化
1 イスラーム教育の管理統制
2 タイ語でイスラームを学ぶ
3 対立の最前線
第5章 イスラームが生み出す社会の亀裂
1 タイにおけるイスラーム復興の顕在化
2 何がビドアとされるのか
3 伝統儀礼への批判が引き起こす不安感
第6章 イスラーム復興と政治
1 イスラーム復興の政治的側面
2 分離独立運動はジハードなのか
3 政治的主張を回避する方法としてのジハード
おわりに――イスラーム改革派と伝統派の接近?
関連年表
略語・用語解説
あとがき
参考文献リスト
索引
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BLACK無糖好き
18
タイ深南部ではムスリムが人口の8割を占め、マレー・ナショナリズムを掲げる武装組織による分離独立運動が続いてきた。これに対し、イスラームの原典回帰を志向する(サラフィー主義)改革派が、タイ政府との相互関係のもとイスラーム教育制度を深南部に構築し教育の近代化を図る。経済発展、教育、行政の問題を政府と協力して行うべきと考える改革派と、タイの支配のもとでは自発的な発展が阻害されると考える伝統派の分離主義者の間で対立が顕著になる。ただこの構図も流動的。改革派のジハード解釈も極めて多様。全体的に新たな発見が多かった。2023/07/19