内容説明
1985年3月のある晩、ノルウェー北極圏の都市トロムソで、精神科医トム・アンデルセンがセラピーの場の〈居心地の悪さ〉に導かれ実行に移したある転換。当初「リフレクティング・チーム」と呼ばれたその実践は、「二つ以上のコミュニケーション・システムの相互観察」を面接に実装する会話形式として話題となる。しかし「自らの発した声をききとり、他者にうつし込まれた自身のことばをながめる」この会話は、より大きな文脈の探求を見据えた〈開けゆくプロセス〉であった。自らの実践を「平和活動」と称し、フィンランドの精神医療保健システム「オープン・ダイアローグ」やスウェーデンの刑務所実践「トライアローグ」をはじめ、北欧から世界中の会話実践を友として支えるなかで彫琢されたアンデルセンの会話哲学に、代表的な論文二編と精緻な解説を通して接近する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さわたろう
1
人は会話を通して何を獲得するのか、そんな事が知りたくて読み始めた本。この本には、精神疾患を持つ人への新しいアプローチであるオープンダイアローグの礎となったトム・アンデルセンの2本の論文が掲載されている。会話を通して、人は人との差異を知る。そして自分の見えている世界を少しずつ変化させていく。「情報とは『差異を生むための差異』である」という言葉が一番印象に残った。あれかこれか、ではなく、あれもこれも、もしくはあれでもなくこれでもなくという、会話の中で実現する多様性の話術を私も見習いたいと思う。2024/01/22
ウッキー
1
「ことばは、手のようである。」帯の言葉が心に染みる。「会話する二人」のイラストもまた、会話が極めて身体的なプロセスであることを表している。安部公房が、ドストエフスキーの文学を評して、ペテルブルグの町に実際に住んでいるよりもさらに深く、(文学を通して)ペテルブルグの町の暮らしを生きることができると語っていたが、まさに。”かつてみたことのある景色”を生き直し、そこから多声が生まれ、異なる視点が生まれる。北欧から始まったリフレクティング、オープンダイアローグ。東洋の文化背景を持つものにはとってはとてもなじみ深い2023/10/08
胡適
1
リフレクティングがオープンダイアローグの源流であることが深く理解できる。2023/01/01
酢
0
帯にある「ことばは、手のようである。」という文言に惹かれて購入。トム・アンデルセンの生涯と実際の論文を紹介しながら臨床実践としての「リフレクティング・プロセス」がどのようなものだったかを描き出す。自分は全くの門外漢だけど、入門書として楽しく読めた。アンデルセンの論文は専門領域に限られない多様な示唆に富んでいる。要点の幾つかは、深く私の中に響いてきた。「会話」というものが何に縛られて抑圧されていて、いかにして解き放たれ新しい可能性や文脈を開拓するのか。そんな事を考えた。2023/08/27