内容説明
大阪でニューハーフ店「さくら」を営む桜は63歳のトランスジェンダーだ。23歳で同じくトランスジェンダーの沙希を店員として雇い、慎ましくも豊かな日々を送っていた。そんなある日、桜の昔の男・安藤勝が現れる。今さらと思いながらも、女の幸せを忘れられない桜は、安藤の儲け話に乗ることを決意。老後のためにコツコツと貯めた、なけなしの1千万円を用意するが……。鬼才が放つ、狂乱の疾走劇。第22回大藪春彦賞を受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
H!deking
88
絶句…イヤーマジか。すごい作品を読んでしまった。というわけで、これも先日手に入れたサイン本。大藪春彦賞受賞作ですね。いやーまだちょっと頭の整理が追い付かない。 昔よく行ってたショーパブで知り合って今はゲイバーのママで60過ぎの人がいるけど、いろいろ思い出しました。やっぱりトランス女性の老いに対する恐怖感って自分には計り知れないな、と思いますね。それはさておき、初期のころの花村萬月を思い出す性と暴力にまみれたロード小説になっています。アマプラとかディズニープラスでドラマ化してほしいな~。名作!2023/01/22
bfish
7
延々と続く暴力、凌辱シーンに何故ここまで不快なシーンを自分は我慢して読んでいるんだろうと挫折しそうになりました。だいたい何度騙されて痛い目にあわされてるんだろ桜さん。LGBTの人の生きざまがメインのテーマだろうが、バイオレンスの前に霞んでしまった気がする。藻屑蟹もそいうだが、作者によるあとがきがすごく印象的で作者の半生を描いたものが読みたくなります。2023/09/19
やまかぶ
7
第22回大藪春彦賞受賞作。LGBTをテーマにしているが、のっけから「LGBTで一括りにされたくない」という主人公の言葉に、まずは一発食らわされる。60過ぎで老後の不安を募らせる桜と、23才の若さと美貌、さらに学をも兼ね備える沙希との、トランスジェンダーにおける世代格差の描写も良く出来ている。タイトルである「犬」は沙希の決意、桜と安藤の主従関係、そして安藤の獣性と、色々なところにフックがある。エグいシーンも多いのだが、自身の体験に基づく作品作りをする作家なので、もしやと思ったら案の定……。2023/02/05
のじ
6
暴力的な描写が多くて目をそむけたくなるんだけれども、それでも目が離せない、という内容でした。老いの不安は自分もそういう年齢に近づいているのでひしひしと共感する。お金のことをきっかけにだんだんとはまっていくお話ですが、今の時代、そういう面にもある程度の知識をもって備えておかなければだまされてしまうこともあるかもなあ、と思いました。2023/03/13
planetarium
5
赤松さんの本は、3冊目です。私、著者とは気が合うと思います。本当に気取ってなくて、人間の本質を描いていると思います。文章にズル賢さがない。それが登場人物に投影されていて、感情移入してしまう。誰だって孤独って恐ろしい。内容はハードなんですけど、それもこの著者にしか書けないものだと思います。2023/03/14