内容説明
近年、ミステリジャンルでの「怪異」の増殖が目立つ。探偵小説や推理小説など、人智による「謎」の「合理的解明」を主眼としたフィクション・ジャンルであるミステリは、人智が及ばない「非合理」な存在である怪異・怪談・怪奇幻想・ホラーとどのように切り結んできたのか。
岡本綺堂、江戸川乱歩、横溝正史、夢野久作、海野十三、久生十蘭、戸川昌子、小野不由美、綾辻行人、京極夏彦などのミステリの代表的な作家の作品はもちろん、四代目鶴屋南北や芥川龍之介、「故人サイト」やゲーム「逆転裁判」シリーズなどのテクストに潜む怪異を丁寧に分析する。
ミステリというジャンルで展開される「怪異」の 拡散と凝集、合理と非合理の衝突から、日本のミステリ小説の潮流を捉え返し、近現代日本の文化表象の変容をも明らかにする。
目次
はじめに 乾 英治郎
特別寄稿 怪異とミステリ――その面白さの類似と相違について 光原百合
第1部 「怪異」と「ミステリ」の遭遇
第1章 歌舞伎と探偵小説――『東海道四谷怪談』とその変容 横山泰子
1 『東海道四谷怪談』について
2 殺人事件と倒叙
3 ミステリの主体・直助と因果
4 ミステリの主体・民谷伊右衛門と怪談の主体・お岩
5 『大東京四谷怪談』――推理を究めた怪談
第2章 怪異と謎解き、そして郷愁――岡本綺堂の探偵小説作法 松田祥平
1 怪談と探偵小説の類縁性
2 怪異が信じられる世界と怪異を解く探偵
3 郷愁と謎解き
第3章 イギリス怪奇幻想ミステリと近代日本文学――A・ブラックウッドと芥川龍之介を中心に 鈴木暁世
1 芥川龍之介におけるブラックウッド受容――「怪異」をどのように「語る」か
2 主観的な怪談と「語り」の問題
3 語りと記憶――補完・解釈・編集
第4章 江戸川乱歩と交霊術――神秘か、はたまたトリックか 大道晴香
1 「悪霊」と交霊術
2 乱歩VS長田幹彦・徳川夢声
3 探偵小説のなかの交霊術
第2部 「怪異」と「ミステリ」の交差
第5章 「怪談」以上「探偵小説」未満の世界――江戸川乱歩の「幻想怪奇の小説」について 谷口 基
1 「合理主義」と「非合理主義」の境界領域
2 「人でなしの恋」――京子の「マクロコズモス」
3 「鏡地獄」――第三の道に生成された「怪談」
第6章 脳内に現象する怪異――海野十三・夢野久作・蘭郁二郎 鈴木優作
1 人間機械論の普及
2 脳神経科学による探偵小説の構築――海野十三
3 脳神経科学で〈ミステリ〉を解く――夢野久作
4 脳神経科学が怪異への道を開く――蘭郁二郎
第7章 〈侵食〉する〈死者〉たち――久生十蘭「死亡通知」における空襲と〈怪異〉 脇坂健介
1 宙に浮く行方不明者の生死
2 一九五二年というターニングポイント
3 混濁する生と死
第8章 「浪漫」としての怪異――横溝正史作品の人面瘡をめぐって 原 辰吉
1 見せかけの人面瘡
2 「人面瘡」と奇形嚢腫
3 「人面瘡」と「人面疽」
第3部 「怪異」と「ミステリ」の融合
第9章 家霊を脱構築する女――小野不由美『残穢』の〈転居〉と戸川昌子「大いなる幻影」の〈賃貸〉 小松史生子
1 小野不由美『残穢』――ワーキングウーマンの住宅ミステリとして
2 戸川昌子「大いなる幻影」――不可視化される単身者の怪談として
第10章 館という幻想――綾辻行人『暗黒館の殺人』における自己の揺らぎ 中川千帆
1 「館」が意味するもの
2 「館」に隠された幻想と語り手
第11章 妖怪の「理(ルビ:ことわり)」/ミステリの「檻」――京極夏彦「百鬼夜行」シリーズは何を「祓った」のか 乾 英治郎
1 妖怪の「夢」/ミステリの「瑕」――「妖怪小説」とは何か
2 妖怪の「宴」/ミステリの「匣」――世紀末の「憑き物落とし」
第12章 オンライン空間と怪異の変容――最東対地『夜葬』、城平京『虚構推理』、綾辻行人『Another』を対象に 伊藤慈晃
1 怪異とアンダーグラウンドなイメージ
ほか
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