内容説明
帝王のかく閑かなる怒りもて割く新月の香のたちばなを――新古今和歌集の撰者、菊御作の太刀の主、そして承久の乱の首謀者。野望と和歌に身を捧げ隠岐に果てた後鳥羽院の生涯を描く、傑作歴史長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
183
良経が机上に置いた千二百番の詠草を見て、《月やそれほの見し人のおもかげをしのびかへせば有明の空》こういう歌に心を奪われる15才の歌狂いがいた。遊興や武芸に耽る乱行ぶりは、海に沈んだ宝剣の代償を求める十代の衝動なのだろうか。良経や宮内卿の死は惜しいが彼の道を変えはしない。叔母式子内親王の死に際しては歌の世界の「忍戀」に沈潜する。まるで新古今和歌集に歌人達の死が捧げられるかのようだった。そして才能を高く買った定家を憎み続ける。作者はその撰歌と配列に潜む情念を描き出し、流謫の王の人知れぬ渇きと慟哭に迫っていく。2023/03/23
藤月はな(灯れ松明の火)
59
「右大臣実朝」と併読して読了。歌や武芸を愛し、鎌倉に実権を執られる現実に忸怩たる想いを抱き、壇ノ浦で沈んだ草薙剣の代わりとなる皇位への正当性を持つ刀を自ら作った後鳥羽院。傍若無人で峻烈故に藤原定家を陰気な男として遠ざけ、実朝の都へ憧れながらも実行に移さない臆病さを嘲る。だが共に過ごした秀能や寵愛した医王へは濃やかな愛情を注ぐ院は高雅故の愛らしさを持つ。だからこそ、承久の乱後に命を散らした臣下達に涙を流し、二度とは帰れぬ都への惜別、もう、逢えぬ人々への息災を願う姿に読者も同じく、涙を禁じ得ないのだ。2023/01/21
優希
48
『古今和歌集』の編纂をしたという印象の強い後鳥羽院ですが、承久の乱を起こしてもいたのですね。波乱の人生を送った稀代の院が後鳥羽院と言っても良いでしょう。迫力ある歴史小説でした。2023/03/21
かふ
16
塚本邦雄は幻想短歌の雄であり前衛短歌という一翼を担った歌人である。そんな塚本邦雄が小説で後鳥羽上皇を描こうとしたのは、紫式部が『源氏物語』を歌物語として描いたことが意識の中にあったと思う。『源氏物語』が武家社会の到来と共に滅びていく王朝栄華物語を描いたのであれば、塚本は滅んでいた王朝栄華の最後の足掻きとして『新古今集』をプロデュースした後鳥羽上皇の幻視の勅撰集という形が徒花をこの世の地獄に咲かせた花なのだろう。それは慈円の悟りを開くという仏僧のあり方ではなく天皇の栄華を尽くすという欲望のあり方なのだ。2023/03/29
べあべあ
11
70年代の著作なのですが、その頃まだ旧漢字でしたっけ?独特の雰囲気があって好きですが、浅学ゆえ読めない漢字もありました(泣)。文武共に才能に溢れ、気力横溢な後鳥羽帝。家臣に冷淡なところもあり、人として好きになれなかったとしても、ひれ伏してしまいそうな魅力がありました。生まれた時代が、なんとも悲運。数十年早ければ政治力で武士勢力と渡り合っていたかもしれないし、数十年遅ければ完全に武士政権が確立されていて、反乱を起こすこともなかっただろうに。2026/05/24
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