内容説明
オリンピックまで二年、昭和三十七年の東京。十七歳の郷子は、二年半前に集団就職で上京したものの、劣悪な労働環境から工場を逃亡した。そのまま上野駅でうろうろしていたところを、浅草にある「洋食バー高野」のおかみ・とし子に拾われ、そこで働くことに。美味しく温もりあふれる絶品料理と、一緒に働く人々や、訪れるお客さんに出会い、郷子は新しい“仲間”と“居場所”を見つけていく──。下町の社交場「洋食バー高野」を舞台に描く、少女の上京物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
しんごろ
189
集団就職、戦争孤児という言葉が飛び交う時代で、そんな状況下の浅草を舞台。グルメ小説だと思ったら違った。劣悪な労働環境の工場から逃亡した郷子の自分の居場所を求めた物語でした。人情物といった感じ。仲間と人の優しさが心地よい。ただ個人的には、洋食屋さんが舞台だから、もうちょっと美味しそうな料理の描写がほしかったし、もっとレトロ感があっても良かったかな。更には戦時中の銀座空襲とか、戦争を知らない自分達に、サラッと流すのでなく、掘り下げても良かったのではないかなとも思う。2021/08/28
Aya Murakami
87
たしかアマゾン購入本。 1962年の東京浅草が舞台。集団就職の女の子が川崎から逃げてくるところから話は始まる。それにしても工場の劣悪な労働環境以上にそこで出されるまずいカレーの描写がちゃんとまずそうでビックリしました。砂でガリガリするタマネギとか生焼けの肉とか…(汗)。適当に作った料理以上に不味くなる恨みつらみのこもった料理。いくらつらい思いをしても職場で患者さんに恨みつらみのこもった仕事を住まいと思った作品でした。こんな時代だからこそ優しくて強い人間が求められていたのですね。それはまた次の本で。2025/11/29
ジュール リブレ
87
1962年の浅草が舞台。「もう戦後は終わった!」という掛け声と2年後に迫った東京オリンピックに向けた時代背景がレトロな感じ。カレーライス、牛鍋、プリン・ア・ラ・モード。時代の先端を行くメニューが、また楽しい風景。 浅草の名物「文化ブラン」を出す洋食バー(そう、雷門そば、松屋の前のあそこです)を舞台に、集団就職先の女工哀史から脱出してきたヒロイン・キョーちゃんを中心に、とし子ママ、料理長、いろんな粋な人たちが楽しい一冊。2021/07/08
のんちゃん
48
昭和37年東京浅草。2年半前、集団就職で上州からやって来た郷子はその就職先の劣悪さから逃亡し、その最中、浅草で洋食バーを営むとし子に救われ、彼女の店で働くことになる。郷子は前職場の事情もあり孤独だったが、この店で自分の仲間や立ち位置を得ていく。店のモデルは有名な浅草の神谷バーだろう。私の生年の頃の話なので思わず読んでしまった(歳がバレましたね😭)この年代位になっても、まだ東京は少し戦争の陰が漂っていて驚いた。私は古い人間なんだと確信😅本作も麻宮さんの独特な感じのする話運び。まだ続編も描けそうだ。2021/11/05
mariann
40
切なくて優しくて、そしてやるせない話だった。昭和37年の東京。オリンピック目前の様変わりしていく街へ群馬から集団就職でやってきた郷子。劣悪な職場環境に耐えきれず逃亡した彼女を救ってくれたのは浅草の「洋食バー高野」のおかみさんだった。目の見えない小巻ちゃんの独特な人生観、素直だけど強かで、それでいて気遣い屋の郷子。良いコンビです。子供は大人の所有物じゃない。まさしく。そして戦争孤児達は大人の始めた戦争なのにどうして差別され、行政に山に捨てられねばならないのか。大人の身勝手さが突き刺さった。2021/11/05
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