筑摩選書<br> 「笛吹き男」の正体 ──東方植民のデモーニッシュな系譜

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筑摩選書
「笛吹き男」の正体 ──東方植民のデモーニッシュな系譜

  • 著者名:浜本隆志【著者】
  • 価格 ¥1,595(本体¥1,450)
  • 筑摩書房(2022/11発売)
  • ポイント 14pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480017536

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内容説明

中世ドイツ・ハーメルンで起きた「笛吹き男」伝説。約130名におよぶ子供たちが突如消えた事件として知られる。その真相は、歴史の闇に隠れ、解明は困難であるとされてきた。諸説あるなか、本書は、事件が東方植民へのリクルートの際に発生したという説に立つが、問題はそこで終わらない。この東方植民をキーワードにすると、ドイツ史の暗部が見えてくる。

目次

はじめに/序章 「笛吹き男」ミステリーの変貌/1 「笛吹き男」伝説の町ハーメルン/2 事件はどう伝えられてきたか/3 宗教改革時代の伝説の変化/4 水車製粉と「ネズミ捕り男」のモティーフの追加/5 グリム兄弟の「ハーメルンのネズミ捕り男」伝説の成立/第1章 「笛吹き男」伝説の虚像と実像/1 事件が起きた「ヨハネとパウロの日」とは/2 冬至祭と夏至祭の構造/3 なぜ「ヨハネとパウロの日」が夏至祭、聖ヨハネ祭と隣接しているのか/4 事件が夏至祭から「ヨハネとパウロの日」へ変更された理由/5 異界が口を開くとき/第2章 事件に関する諸説/1 子供十字軍説/2 舞踏病説/3 「ゼーデミュンデの戦い」における戦死説/4 従来の東方植民説/5 言語学者ウドルフの東方植民説とその背景/第3章 ハーメルンで起きた事件の検証/1 ロカトール(植民請負人)はなぜハーメルンを目指したのか/2 ロカトールの市内でのリクルート/3 子供たちを巻き込んだ理由/4 「舞踏禁止通り」から東門へ/5 どのようにして集団を東方へ連れて行ったのか/第4章 ロカトールの正体と東方植民者の日常/1 入植時のブランデンブルク辺境伯領/2 ロカトールの正体と『ザクセンシュピーゲル』/3 東方農民の日常生活/4 『ザクセンシュピーゲル』における民衆の法的状況/5 ドイツ騎士修道会の特色とロカトール/第5章 ドイツ東方植民の系譜/1 ブランデンブルク辺境伯領からドイツ帝国への道/2 ヨーロッパ辺境における「北の十字軍」/3 「北の十字軍」はなぜ衰退したのか/4 ワシの紋章と鉄十字章が語るドイツ史/5 ドイツナショナリズムと「東方への衝動」/第6章 ドイツ帝国(一八七一─一九一八)の植民地政策/1 海洋型と大陸型の植民地主義/2 ドイツ帝国と植民地主義/3 挫折したバグダード鉄道/4 第一次世界大戦の教訓/5 近代の東方植民地──ヴォルガ・ドイツ人自治共和国/6 植民地の放棄とミュンヘン一揆/第7章 ナチスと東方植民運動/1 『わが闘争』と東方生存圏/2 ナチス東方植民運動と「地政学」、農業イデオロギー/3 ドイツ騎士修道会とナチス親衛隊(SS)/4 東方への道──オーストリア、チェコスロヴァキア、ポーランド併合/5 ポーランドにおける東方植民政策とバルバロッサ作戦/第8章 「笛吹き男」とヒトラー/1 図像が示す「笛吹き男」とヒトラーの構図/2 集団妄想の醸成と民衆操作/3 巻き込まれた子供たち──ヒトラー・ユーゲント/4 レーベンスボルン(生命の泉)──アーリア民族創出プロジェクト/5 占領地のレーベンスボルン──拉致された子供たち/あとがき/主要参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

パトラッシュ

109
グリム童話で有名な「ハーメルンの笛吹き男」は、隣接地に同じ民族を移住させる東方植民のリクルートに際して起きた事件が原型と見る。当時の風俗習慣や残された資料、植民活動に従事した修道会の歴史を傍証とした推理は、下手なミステリも及ばない鮮やかさで納得させられる。東方への拡大衝動はドイツの生存圏獲得を至上とするヒトラーによって国策に採用され、第二の笛吹き男となった彼の煽動下で東欧やロシアのドイツ化政策が進められた。人命を使い捨てる思想が数百年後に大量虐殺へ発展する有様は、政治が生み出した幻想の恐怖を禍々しく示す。2023/03/06

まーくん

96
阿部謹也の『ハーメルンの笛吹き男』はドイツの小さな町ハーメルンで700年前に起きたとされる、「笛吹き男に連れられ130人の子供たちが失踪した」という伝説の真相を探ることにより、中世の社会、民衆の暮らしや文化を生き生きと描いて見せた。しかし伝説の本丸を包囲しながらも、真相には突入しなかった。本書の著者浜本隆志は、事件が起きたとされる「ヨハネとパウロの日」(6/26)への疑問を手懸りに、そこへ敢て攻め込み、「東方植民」説と植民請負人ロカトールに焦点をあてる。そして、この東方植民運動の流れは⇒2022/12/17

Nobuko Hashimoto

33
阿部勤也らの先行研究を踏まえ、ネズミ捕りの男と共に消えたハーメルンの子どもたちは実際には東方植民の請負人にくっついていったという前提のもと、なぜそういえるのか、なぜハーメルンだけで悲劇として伝承されたのかを歴史資料の記述や当時の風習等から推論する。本書の特徴は、中世の伝説の検証にとどまらず、東方植民が後のドイツ史、特にナチの生存圏を求める政策に負の影響を及ぼしたことを論じているところ。前後半とも図版も豊富で文章も読みやすく、たいへん面白かった。阿部勤也の『ハーメルンの笛吹き男』、もう一度読み直そうっと。2023/03/13

ぽけっとももんが

10
グリムで有名な「ハーメルンの笛吹き男」。ところでグリム兄弟が残したのは「童話集」と「伝説集」があるそうですよ。そして笛吹き男は伝説。どうやら本当にあったことらしい。それではこどもたちはどこへ行ったのか。東方への植民説が有力、というのは目新しくはない、ただ話はそれだけではなくドイツという国の歴史や東へ向かう理由、ナチスドイツやレーベンスボルン、ヒトラーの娘たちについても記述が及ぶ。基礎知識が薄いのできちんと理解したとは言えないけれども、今まで読んだ本たちがなんとなく繋がってくる。2023/05/05

Rieko Ito

6
前半はハーメルンの笛吹き男について。笛吹き男と東方植民との関係は興味深い。ただ、なぜ子どもたちがということについては説得力に乏しい。後半は主としてナチスのレーベンスボルンについて。中世から現代までドイツに流れる東方植民政策があるという話なのだが、前半後半の結びつきには強引なところがあり、一冊の書籍としては分裂してしまっていると思う。   2024/01/24

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