内容説明
トランプ政権誕生で再びブームとなったディストピア小説、ギリシャ神話から18世紀の「少女小説」まで共通する性加害の構造、英語一強主義を揺るがす最新の翻訳論――カズオ・イシグロ、アトウッドから村田沙耶香、多和田葉子まで、危機の時代を映し出す世界文学の最前線を、数々の名作を手がける翻訳家が読み解く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
115
現実世界では宗教的保守主義の立場から同性愛や妊娠中絶を否定し、独裁的支配を正しいとする政治勢力も女性を含む支持を得ている。それはトランプ政権誕生やロシアのウクライナ侵攻でも明らかだが、そんな情勢に危機感を抱く著者はリベラル民主主義こそ不動の正義であり、強権支配や女性差別のディストピア打倒こそ現代文学の使命と主張する。世界で活発化する潮流に日本文学も加わっている事実を紹介するが、無条件に正しいとは肯定できない。文学の力を信じる者として、ある時代の基準だけで過去を裁断するのが当然との時代が来るのを恐れる故に。2023/02/21
おたま
55
著者は、マーガレット・アトウッド『誓願』の訳者として知った。この本でも『侍女の物語』や『誓願』について、かなり立ち入って書いており、興味深く読んだ。『侍女の物語』が、女性に対する徹底的な差別的ディストピアを描いており、発表当時のフェミニズム運動に肩入れするものだった。がその後、中絶を法的に禁止する州等も現れて、フェミニズムに対するバックラッシュも激化してきている。その中で、まさにその先を予言するかのような『誓願』が書かれたようだ。これらの本を読んでいくのに非常に参考になる。2024/07/14
情報の削除希望
48
ピンポイントに思っていたことや疑問だった部分が漏れなく語られていてる。あれもこれもとスッキリしつつも、もっと読書数📖上げてから読むべきだったかもという…ちょっぴり後悔も😅取り上げられている作品に未読いっぱいでした。2023/03/09
フム
47
著者のことはアトウッドの『誓願』の翻訳者として知った。35年余りの文芸翻訳だけでなく、新聞や文学雑誌に書評や評論も掲載されていて、名前を覚えてから注目して読むようになった。本書はそれらの原稿を加筆修正してまとめたものだ。読みながら著者の守備範囲の広さと文学の読みの深さにただただ驚いた。その謎も読んで行くとわかる。翻訳とは考き(つらぬき)察る(みる)こと「言葉の水の中を泳ぎながら水の性質について考える」ことだという。そうして来たことで多角的で深い読みができているのか。感心するばかりだ。2023/03/08
かさお
34
ディストピア、ウーマンフッド、他者(翻訳を通じて異質なものと出会う)この3つが著者の20年の執筆生活から滲み出たキーワードらしい。読みたい本をメモってると、とんでもない量に。なにせ約400人近い人物、400近い文学を引き合いに出しているのだから。特に腑に落ちたのは、大きく取り上げられている多和田葉子論。あの何とも比喩しがたい魔訶不思議さを「ズレ、ヌケ、ボケ、逸れ」と論じ、形の無いものに名前が出来たスッキリ感を得た。また、翻訳における政治性、272pの「小説を読む事は宙づりの時間を楽しむ事」も同様→ 2023/07/15