内容説明
「私は今では、人が自己をあらわに見出すのは【私的日記/ジュルナル・アンティーム】による内省においてよりも、むしろ自らを外界に映し出してみるときだと確信している」
1985年から1992年にかけて、著者は自らが暮らしたパリ近郊のニュータウンで見聞したスーパーのレジ係、地下鉄ですれ違ったひとなど、見過ごしてしまうような情景を日記のごとく書きとめてきた。スケッチ風の短い断章からなる本書は、独自の視点と感性で、「戸外」の日常的な場所で見かける他人の内面を炙り出し、自己への認識を深めていく。
フランス人女性として初めてノーベル文学賞を受賞した作家の鋭い観察眼が光る随筆集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きゅー
12
フランスのとあるニュータウンでの人間模様を記録した一冊。一種の写真的記述法とあるように、二度と会うことのない匿名の人々の様子が写し出されている。と言ってもここにも著者の取捨選択の意志は介在しており、社会的に抑圧された人々、傲慢なブルジョア、客と店の人の会話など、人と人との間に生まれる差異、軋轢、不満などが多いように感じられる。彼女はそうした様々なシーンを、なにかに役立てるためではなく、それら自身のために書き取っておく必要も感じると書いている。2023/05/19
adu
3
「人が自己をあらわに見出すのは私的日記による内省においてよりも、むしろ自らを外界に映し出してみるときだと確信している」と序文にあるようにこの本は、著者がなるべく感情を排し、日常の中で見聞きした光景をそのまま断片的に書いている。しかし、この書くということの原点ともいえる方法は、著者が何を見ているか、そして世界がどんな問題をはらんでいるかをあらわにしている。このような書き方は書いた人の数だけ、真実を浮かび上がらせるだろう。貧困でも、戦争でも、個人の日常の端々から染み出してくるものだろうから。2022/11/23
ユカ
3
外で見かけた光景の文章スケッチ。始めはこんなにさらけ出していいのかとハラハラ。だって視点とか、思考とかが丸裸で。わりとマイナスなことばっか気になってるようだし…と読み進めて、読了後は「一緒にワイン飲みながらお話したい!」となりました。分かる!それ!の連続。もっと読みたいし、私もこういうの書いてみたい。2022/11/09
ありんこ
3
ノーベル文学賞受賞ということで、読みやすそうなこの作品を選んでみました。当時の社会的背景を知ることができます。身の回りの人々の行動を描いたスケッチのような短文ですが、どれも味わい深く、考えさせられる内容でした。日本では、漫画で表現している人もいるかもしれませんが、このような文学を書いている人がいたら読みたいです。2022/10/16
たけい しかた
1
こちらも絶品でした。自分を感じるのは内省だけではないと確信してする作品デス。自分の外、「戸外」の日常で見かけた人びとのスケッチ。情景のスナップを書き綴る。当時のフランスが浮かび上がる。そこにアニーエルノーご居る。そんでもって物事との距離感が絶妙でした!2023/05/08