内容説明
作家、とりわけ、忘れられた作家やマイナーな著述を研究するとはどういうことか。どういう表現を、どういう作家や資料を、文学研究はとりあげるべきなのか。研究方法そのものを問い直し、文学研究の意義や方法を新たに見出していこうとする書。
本書は、ある一人の職業作家の、生活と出版環境との関わりに踏み込み、作家や小説の価値をとらえなおそうとする。そこではどういう点に、作家を研究する意味、面白さは見いだせたのだろうか。
その作家の半世紀にわたる詳細な日記から、小説の解釈、あるいは作家の伝記的な事実確認といった従来の文学研究を超えて、生活者としての作家の情報をもとに、出版・読書環境を浮き彫りにし、その変化をとらえ、戦後の長い時間的なスパンの中で、作家が職業として読み、書く行為をとらえる。本書により、文学研究は、その対象や方法の可能性を広げ、他の研究領域と問題意識や関心を共有してゆくことも可能になるであろう。
本書は論考編と日記データ編の二部構成となる。論考編である第一部「作家とメディア環境」は、それぞれの論者の問題意識から日記データを活用しつつ展開した論文によって構成。そして第二部「日記資料から何がわかるか」は、日記データのうち、作家の生活に大きく作用していることが日記からうかがえるテーマを中心に、日記本文が読めるよう日記の記述を抽出し、集成する。最後に人名リストを付す。
執筆は、須山智裕/加藤優/田中祐介/中野綾子/河内聡子/大岡響子/宮路大朗/康潤伊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
104
榛葉英治という直木賞作家がいたとは知らなかった。純文学で身を立てようとしながら生活のためエロ小説に手を染め、ついに文壇で認められなかった。直木賞同期が山崎豊子で芥川賞が大江健三郎なのだから、気の毒なほどの落差だ。そんな榛葉の遺した日記から、戦後出版文化の最底辺にしがみつく売れない文士の姿が見えてくる。小説の注文もなく貧乏に苦労し、丹羽文雄に借金しながら飲酒をやめられず、繰り返し金がないと日記に綴る。戦前の私小説に出てきた生活無能力者そのものだが、作家のプライドだけで貫いた生き様は呆れながら感心してしまう。2022/10/22
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