内容説明
中央アフリカで発見された謎の病、アブバジ病に罹患したパストゥール研究所の学者フランソワ。病床の彼から預かった資料を、ナディア・モガールと矢吹駆は、フランソワの師・マドック博士に届けるため、アテネへと旅立った。しかし博士は、エーゲ海の孤島・ミノタウロス島に渡っていた。彼を追うナディアと駆。島の館・ダイダロス館には、二人を含む十人の男女が集まったが、嵐で島は孤立、ギリシア神話をなぞるように装飾された客たちの死体が次々に発見される。奇怪な連続殺人の真相は? シリーズ中白眉といわれる、記念碑的傑作本格ミステリ。/解説=飯城勇三
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
geshi
39
頁数でも内容的にもハードな読書だった。『そして誰もいなくなった』をオマージュしているけど、島に集まって人が死ぬまでにクリスティーなら1冊終わるぞ。哲学談義は理解が追い付かず流し読みになってしまい、この作品をどこまで読み込めたのか分からん。真相の基本構造はシンプルなものだが難解や装飾がそこに目を向けさせないし、フーダニットの手掛かりも丁寧と本格ミステリの本道は踏み外していない。ラストのクローズドサークルものの逆転は探偵役が矢吹駆じゃないと成立しないよね。2023/02/25
モルワイデ鮒
21
謎の病と館に集められた十人。孤島と密室の内と外。人が人を殺すことは許されているのか。『愛の三範疇』『ならびみ、むきあい、わたしみ』『見る、見られる、見返す』矢吹カケル半分ぐらい何言ってるかわからない。折り目正しい孤島の館ミステリに哲学講義とギリシア神話の装飾てんこ盛りで千ページ弱。両手に持てる情報量は早々に限界。出てくる仮説を次々鵜呑みにして腹一杯。しかしぐったりして開いた終章で突如霧が晴れる。カケルのイメージも激変、は言い過ぎちょい変。ラストも印象的。真相を忘れないうちに再読したいが体力が。2024/08/30
アラレちゃん
9
再読。 初読の時と、評価が真逆になった。解説を読んで再読したら、しっかりとした本格ミステリだった。解説者の飯城さんが言うように、シリーズ1作目から読んでなくても、この作品のみでも新本格ミステリ好きが楽しめると思う。(矢吹駆シリーズファンとしては1作目から読んでほしいが) クレタ島沖の絶海の孤島で起きる連続殺人事件。クローズドサークル・ミステリとなっていてるし、作中には『そして誰もいなくなった』や『ギリシャ棺の謎』が出てきたりと、ミステリ好きには堪らん内容である。 何で初読の時は面白くないと思ったんだ。2025/08/10
marty@もぶおん学
9
創元推理文庫版刊行を機に再読。孤島に閉じ込められた人物たちが次々と殺されていくというミステリとしては王道の展開だが、ミノタウロス島というエーゲ海に浮かぶ孤島が舞台ということで雰囲気は満点。ダジールという名のミシェル・フーコーはじめ、いずれも思想に一家言持つ登場人物ばかりでこのシリーズならではの哲学論議が交わされ、さらにギリシア神話の蘊蓄や、表題の謎のウイルス感染症を巡る不穏な動きありで、物語に重厚感を与えている。2023/02/12
花嵐
8
★★★★★ 矢吹駆シリーズ第五弾。いわゆる孤島もの。長編なので途中で中弛みするかもしれないと思っていたが、そんな事態にはならず最初から最後まで物語のスピード感は維持され止まらなかった。きっとその速度感から犯人も犯行を止められなかったんじゃないか、と錯覚してしまいそうになるぐらいには。こういう結末には陰惨な口笛が似合うような気がする。それにしても物語の合間に挟まれた探偵小説論の探偵イコール犯人、もしくは犯人に匹敵しうるという可能性の話は結構面白かったなぁ。そこらへんの観念の話は直感的にはわかる気がする。2024/03/07