内容説明
2年前に結婚し、夫と死別した柚子は昼間はコールセンターのシフト制で働くフリーターだ。義理の母は柚子に息子を殺されたと罵倒する。柚子が味わった地獄は、別の形となって続いていた。それは何の前触れもなく突然やってくる異界のものたちとの闇の取引だ。いつ蹂躙されるともしれない危険と隣り合わせだが、窓の外の哀れな貧しい物の怪たちの来訪を待ちわびる柚子なのであった……。(「やみ窓」)
月蝕の夜、「かみさん……」土の匂いのする風が吹き、野分の後のように割れた叢に一人の娘が立っていた。訛りがきつく何をしゃべっているか聞き取れないが、柚子を祈り、崇めていることが分かった。ある夜、娘は手織りの素朴な反物を持ってきた。その反物はネットオークションで高額な値が付き……。そんなとき団地で出会った老婦人の千代は、ネットオークションで売り出した布と同じ柄の着物を持っていた のだ。その織物にはある呪われた伝説があった……。(「やみ織」)
ほか、亡き夫の死因が徐々に明らかにされ、夢と現の境界があいまいになっていく眩暈を描いた「やみ児」、そして連作中、唯一異界の者の視点で描いた「祠の灯り」でついに物語は大団円に。色気と湿気のある筆致で細部まで幻想と現実のあわいを描き、地獄という恐怖と快楽に迫った傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
オフィーリア
59
何処にでもいるような女性が異界との交流を経て神と崇め奉られる中、徐々に神性を得たかのように引き込まれていく様子にゾクゾクが止まらない。窓一つを介した異界との交流を描いた夜はじっとりと幻想的でただただ美しい。本作もその世界観、その文章を堪能させて頂きました。2024/09/29
眠る山猫屋
57
実は恒川光太郎さんの『夜市』をイメージしていたのだけれど、勿論ちょっと違った物語にのめり込んだ。人として終わってる(実際死んでるが)夫とその母から隠れるように生きている柚子。彼女が棲む古びた団地の一室、その窓には深夜になると“取引”を望む異界の者が訪れる。この異界の正体は存外早く明かされるが、それでも窓の向こうから流れ込む夜霧の空気感にはゾクゾクさせられた。亡夫との過去や義母の嫌がらせ、柚子を裏切ろうとした異界の村の末路は強烈だが、死んだように生きる柚子を(ある意味)鍛えていたのだろうなぁ。 (続)2022/11/15
雨
37
どことなく不思議で得体の知れない怖さを感じた。2022/11/21
JACK
14
◯ バツイチで30代の柚子は古びた団地に一人で住んでいる。生きる気力もなく、昼間はアルバイトで働き、毎日を無為に過ごしていた。そんな彼女の唯一の拠り所は「夜の取り引き」。彼女の部屋の窓を叩く深夜の訪問者。窓を開けると汚れた姿の者が訛の強い耳慣れない言葉で語りかけてくる。彼らは現世では手に入らないものを手に、取り引きを持ち掛けてくるのだった…。不気味な描写が続く和製土着ホラー。話が急に飛んで読みにくいところがあるのが難点。かなりグロテスクなシーンもあるので読む人を選ぶ作品だと思います。2024/09/15
ぽすこ
14
独特な世界観。怖さはあまり感じられないが、じっとり気持ちの悪い雰囲気。2023/08/03