内容説明
ひとつの国の滅亡の過程をつぶさに描く
1453年5月28日、ビザンツ帝国皇帝コンスタンティノス11世は、コンスタンティノープルを包囲するオスマン・トルコ軍に対し最後の戦いに臨もうとしていた。出陣に際しての演説は、「たとえ木や石でできた者であっても涙をとめることができなかった」と言われるほど感動的なものだった。翌未明、城壁がついに破られたと悟った皇帝は、死に場所を求め敵中に突入する──
悲愴で劇的な、長らく語られてきた帝国滅亡の場面である。だが悲しいかな、この出来事を伝える記録は偽作であることが今日では判明している。では実際にはどうであったのかを、当時の他の記録を見ていきながら、その背景にあるビザンツ人の価値観や複雑な国際政治の現実を、最新の研究成果を盛り込んで分析したのが本書である。
同じキリスト教の西欧諸国は、かつて十字軍で都を征服した敵でもある。一方、かなりの期間、ビザンツ人とトルコ人は必ずしも敵同士ではなく、日常レベルでは平和に交流していた。両者のはざまで、皇族から都市民衆まで個々人が、危機に際してどういう選択をしたか、著者は包囲戦の百年前から帝国滅亡後の人々の動向まで描いていく。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Masayuki Shimura
2
【この惨事から得られた教訓は他にもあった。問題は、その教訓が何かについて、ビザンツ人たちのあいだで合意が成立しなかったことである】(文中より引用)・・・・・振り返ってみれば単直線的に帝国の崩壊に突き進んでいるように見えたとしても、その時代を生きている人たちからすれば、帝国の終わりはまったく予想もつかなかった未来であったんだなということを痛感しました。冷静である一方、冷淡まではいかない筆者の目線に共感を覚える一冊です。2022/11/15
しじまいずみ
1
難しかったけれども最後まで読めた。訳者の言う通り、「歴史というものはロマンではない」ということに同感した。事実の羅列にロマンを求めるのはそこに味付けをして勝手に感動してる他人事だからであって、リアルタイムに当時を生きた人たちにとってはロマンもへったくれもないだろう。 それでも当時を生きたい人たちのことを少し理解できた…と思う。2023/09/11
翠
1
訳者も言っているように、ロマン小説のような書かれ方が多い中、一般市民の日常や政治の延長として帝国の滅亡と略奪と生き残った営み文化があったと、あえて淡々と書いてあり、参考になった2022/07/05