内容説明
ある晩、内科医の輝彦は、妻・慶子の絶叫で跳ね起きた。元医者の父・久が慶子の入浴を覗いていたというのだ。久の部屋へ行くと、妻に似た裸婦と男女の性交が描かれたカンバスで埋め尽くされていた。認知症を確信した輝彦は、久が残した事前指示書「認知症になったら専門の病院に入院させる。延命治療の類も一切拒否する」に従い、父の旧友が経営する病院に入院させ、弁護士の弟・真也にも、事前指示書の存在を伝えた。長い介護生活を覚悟した輝彦だったが、ほどなくして久は突然死する。そこには医師同士によるある密約が隠されていた。――医師の兄と、弁護士の弟は、真相にたどり着けるのか? 命の尊厳と向き合う傑作長編。
目次
プロローグ
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
第六章
終章
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
なっち
34
楡さんお初。人間の尊厳とは何か。医療が発達し寿命が延びたこの国で安楽死が認められることはないのか。大切な家族に甚大なる負担をかけてでも生きながらえたいと思う人がいるだろうか。先日映画「ロストケア」を観ました。誰もが当事者です。もしもの時のことを今から考えておかなければ…2023/04/12
さち@毎日に感謝♪
30
あらすじに惹かれて読みました。初読み作家さんです。認知症介護、終末医療、財産分与争いのテーマでした。議論はされているけれど解決策は見つからないこの問題、色々と考えさせられました。2022/11/27
橘 由芽
10
あなたならどうする?をつきつけられ何ともいえない気持ちをもて余す自分です。ある程度の年齢に達した人ならば誰でも避けては通れない認知症の問題、、、 人間が生きるとはどういうことなのか、命とは?安楽死、尊厳死が議論され続けて久しいけれど、恐らくは今後も日本においては一律の結論には結びつくことはないでしょう。今年読んだ本の中で一番印象に残った小説になりました。2022/12/24
かずぺん
10
精巧に組み立てられた家族の物語である。誰しもがその家族の状況になり得る。この長寿社会を国はどう考えるか。自分はどう考えるか。大きな問題提起である。2022/11/21
akiko
9
職業柄、認知症については認識していると思う。そして自分もこの兄弟と同じ思いだ。未来はわからない、まして明日のこともわからない。この問題について考えると、様々な不安で一杯になる。今から出来る対策をしたとしても、100%万全ではない。フィクションとして読みながら、自分のこととして重ねて読んでしまった。とても重い、答えのないテーマです。2022/11/28