内容説明
ニーチェは一般のイメージとは異なり、「強い」価値や精神を否定していた。ニーチェの言う「超人」とは、「弱い」方向へと疾駆する、人間の生んだ「高い価値」とは無縁な総合的人間である。超人のなかでは、無数の他者やものやことが闘争しており、その過程で偶発的に生まれる〈あいだのいのち〉を感受して生きること(=アニマシー)こそニーチェが目指したものだった。世界哲学の視点からニーチェを読み直すことではじめて見えてくる生命力あふれる人間像に、混迷の時代を生き抜く新しい力を見出す。
目次
第一章 ニーチェを考えるための前提作業
1 哲学史的考察、共時的構造化、世界哲学
哲学史的考察
共時的構造化
世界哲学としてのニーチェ哲学
西洋近代の世界観が浸透するまえの世界を復元する
2 ニーチェを見るパースペクティブの問題
ニーチェは自然主義か
人文学的な、あまりに人文学的な
人文学者はわかりすぎている
フランス現代思想のニーチェ解釈
3 普遍と特殊のあいだ──カテゴライズ
自己観・生命観・人間観・社会観をゼロから構築する
カテゴライズという方法論
三つのカテゴライズ
4 三つの「生命」
肉体的生命と霊的生命
ニーチェの〈第一の生命〉讃歌
5 三つの存在様態
〈第一=個別〉〈第二=集合・全体・普遍〉〈第三=あいだ〉
三つの自己
6 マルチサブジェクティビズム(多重主体主義)
人間とは知覚像の束
〈あいだの主体〉
第二章 動物としての人間
1 道徳批判か、動物としての人間か
〈文化と自然=道徳批判〉と〈動物としての人間〉
ニーチェはなぜ方向転換をしたのか
ニーチェはなぜ〈動物としての人間〉の方向性をきわめなかったか
〈動物としての人間〉が重要
2 ニーチェの人間観察=動物観察
〈アニミズム〉の教育
「動物」観察するニーチェ
3 動物としての人間
『偶像の黄昏』におけるアニマシズム
4 ニヒリズムとアニマシズム
古典的アニミズムとニーチェのアニマシズム
アニマシズムとニヒリズム
アニマシズムとニヒリズムの関係
5 ニヒリズムから「ラディカル・ニヒリズム」へ
統一の感覚の欠如
第三章 あいだのアニマシー
1 ニーチェが嫌ったものはなんだったのか
超越的・普遍的・統体的な価値の破壊
ニーチェ語の翻訳
2 あいだのアニマ──アニマシズムに向かって
アニマシズムとは
アニマシーのダンス
「高等な人間たち」とはだれなのか
3 ソクラテスとニーチェ──〈あいだのいのち〉を破壊するのはだれか
結局ニーチェはなにを好み、なにを嫌ったのか
〈あいだ〉のニーチェ
ソクラテス以前の哲学と以後の哲学
ソクラテスの「無知の知」
「反哲学」のアテナイを破壊するソクラテス
〈あいだのいのち〉というものがある
孔子はなんといったか
孔子を否定する儒家
〈あいだのいのち〉を破壊する
4 ヘルダーリンとニーチェ
ニーチェ哲学の「成長」
魂は悪でもある
第四章 ニーチェにおける生・ちから・自己
1 ニーチェの生(Leben)
「生の哲学」と「生政治」の哲学
ショーペンハウアーとニーチェの生
Leben=生とはなにか
生は統一ではない
〈あいだのいのち〉
2 マハト(Macht)とヴィレ(Wille)
「権力」への「意志」?
マハト(Macht)とはなにか
ヴィレ(Wille)はこころの動きではない
「尽」としてのヴィレ
ヴィレ・ツア・マハト(der Wille zur Macht)とは
3 〈あいだ〉としての自己
Leib=なまみ
意識は〈あいだ〉のために
主観の多数性
認識の多数性
「個人」と「畜群」の関係
主観はない
総合的人間
総合的人間の別名
「より高い人間」と総合的人間
強さと弱さ
第五章 東洋哲学とニーチェ
1 道家思想とニーチェ
ニーチェと東洋哲学
外部の遮断
内面への沈潜
孟子の内面主義
『中庸』の内面主義
形のないもの──〈汎霊論〉へ
ニーチェの内面
ニーチェの経験
2 陽明学とニーチェ
朱子学、禅、陽明学
狂と〈子ども〉
3 仏教とニーチェ
ニーチェの仏教理解
総合的人間と天台哲学
4 道元とニーチェ
道元のアニマシズム
環世界に生きる
法位に生きる
有時と経歴
第六章 解放するニーチェ
1 社会を変革するニーチェ
不死身のニーチェ
ニーチェから完全回答を得たひとびと──日本の場合
欧米でのニーチェ「利用」
アメリカの文化保守主義者たちのニーチェ
フーコーとニーチェ
2 ニーチェと民主主義
アメリカにおけるニーチェ利用
ニーチェ的マルチチュードの政治学
多文化主義とニーチェ
3 ニーチェと尊厳
ニーチェの尊厳議論はなぜ重要なのか
現代において尊厳はいかなる問題を提起しているのか
尊厳に対するニーチェの言及
ニーチェの尊厳の二重性
同情と尊厳
東アジア哲学と尊厳
おわりに
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