内容説明
中国西北部に位置する新疆ウイグル自治区。中国全体の6分の1ほどの面積に、約2500万人が暮らす。1955年に自治区が成立した当初、中国共産党は少数民族の「解放」を謳った。しかし習近平政権のもと、ウイグル人らへの人権侵害は深刻さを増している。なぜ中国共産党は、多くの人々を「教育施設」へ収容するといった過酷な統治姿勢に転じたのか。新疆地域の歴史を丁寧にたどり、その現在と未来を考える。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
absinthe
147
最近浮き彫りになったウイグル問題を、漢の時代から現代にかけて歴史を交えて語る本。人物名がとても多いので、中国史を知らなかったabsintheは、すぐに名前がごっちゃになった。大した情報量で、東トルキスタン独立運動など重要な項目を開設する。「親戚」という漢人のスパイが各家庭に一人割り当てられ、反中華的な思想が見だされたら強制収容所に送られてしまうという現実。この親戚による狼藉が問題になっている。2023/01/12
skunk_c
85
若手の研究者が今中国における民族問題の焦点となっている地域について、その歴史的成り立ちと共産党による統治・支配の歴史を丹念に叙述した本。研究者らしく冷静かつ丹念に、ある意味淡々と史実を上げながら、現代の民族対立に至った過程を詳らかにしている。興味深かったのはウイグル人の不満分子らによる反発が激化する中、9.11が起こり、中国の「反テロ」弾圧にある意味正当性が与えられたあたりの事情。また習近平時代にはっきりと同化政策に舵が切られるが、中国側の立場がウイグル人の抹殺(ジェノサイド)ではなく同化だということ。2022/08/18
syaori
72
中国共産党下の新疆の歴史を概観する本。伝統的にはイスラム世界に属し、ロシア(ソ連)の影響も強い新疆の「中国化」が、監視の強化や強制収容に至るまでの過程が現地ムスリム・漢人・政権側の立場を顧慮した中立的な視点から辿られます。ここから露わになるのは、「ウイグル人の尊厳」を求める現地ムスリムに対し様々な配慮はすれど、それにより彼らが「まっとうな中国人に生まれ変わる」ことを求めてきた歴史で、近代国民国家は”想像の共同体”であり共通の物語によって醸成される面もあるのですが、それを強制的に行うことの怖さを感じました。2023/04/18
活字の旅遊人
44
あとがきによると、このエリアを扱った手軽に読める本は今までなかったらしい。敦煌より西のエリア。まさに西域。いろいろな経緯で中華人民共和国に属しているのだが、周りの「スタン」国家たちがソ連崩壊で独立したあとも、その中にいることを余儀なくされている。これ、すごい明暗だよなあ。中共もかつては民族性を重んじていたからこその「自治区」なんだろうけど、昨今はかなり締め付けているのだろう。欧米基準を世界中に適用する必要はないはずだが、全員テロリストの可能性があるかのごとき扱いでの監視や教育は間違いなくやり過ぎだな。2023/03/26
サアベドラ
32
1955年の設置から今日までの新疆ウイグル自治区の中共支配の歴史を略述した新書。2022年刊。著者の専門はソ連の民族自治。時代によって濃淡はあるものの、共産党の異民族の支配の仕方は基本的には内地の漢人に行ってきたことの延長線にあるように見えるが、ウイグル人はそもそも漢人とは異なる歴史を歩んできた人々であり、その伝統と誇りを踏みにじり(漢人の考える)実利である経済的恩恵のみを押し付けても反発を受けるのは当然ではないか。習近平の時代に入り、監視と統制が急速に強化されているとされ、動向を注視する必要がある。2023/07/09