内容説明
針と糸、そしてミシンが私たちの命を救った――アウシュヴィッツに収容されながら、ナチス幹部たちやその家族の衣服を仕立てることで、地獄を生き抜いた女性たちの衝撃の記録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
雪月花
48
アウシュヴィッツで生き延びるために、強制収容所の所長の妻へ―トヴィヒ・ヘスが作った高級服仕立て作業所でお針子をしていたユダヤ人女性たちの記録が、イギリスの服飾史研究家によって事細かに書かれている。映画『関心領域』と重なる部分も多く、ヘートヴィヒの自慢の庭園も150人の囚人が携わっていたこと、お針子たちが作る高級服をヒトラーの愛人も着ていたことなど驚きの事実が多かった。戦後アウシュヴィッツ生存者たちが周囲の無頓着、無感動、無関心な態度とどう戦い、どう生きたかも書かれている貴重なノンフィクション。2024/07/16
つちのこ
41
ホロコーストの記憶が風化していくなかにあって、新たな事実を掘り起こした労作である。今のところ今年度最高のノンフィクションと自薦したい。人間の尊厳ともいえる衣食住を奪ったアウシュヴィッツの収容所生活の中で、生き延びるためにナチス親衛隊の妻たちを着飾る衣服を作る、縞模様のボロ着をまとった囚人たち。理不尽なそのギャップに怒りが沸騰する。解放後にボロ服を脱ぎ、服を変えたことで「また人間になった」という言葉は計り知れないほど重い。また、解放後の“死の行進”の始終が、多くの証言のもとに記されていることも特筆できる。2022/08/01
星落秋風五丈原
35
とある場所の縫製所では、ユダヤ人女性達が忙しく立ち働く。ところが突然緊張が走る。お針子の一人が、アイロンで布地を焦がしてしまったのだ。劣勢にあって素材が簡単に手に入らない。失敗したお針子は青くなる。でも心強き彼女達のリーダーは、ミスをミスに見せないで繕うやり方を知っていた。顧客は一瞬変に思うものの、巧みにリーダーの弁舌に言い任されてしまう。本書は、こんな映画の一幕のような場面から始まる。アウシュヴィッツと聞いて浮かぶイメージは、大量虐殺、ジェノサイド、悲惨、惨劇…いずれもマイナスイメージだ。2022/06/18
Nobuko Hashimoto
30
アウシュヴィッツのような場所では、運によっても人生が左右されたのは確かだが、生き抜こう、友人や親族を守り切ろうとする意思と行動も命運を分けたことがわかる。著者アドリントン氏はイギリスの服飾史研究家。ていねいな取材と研究に基づいた本。関西ウーマン月イチ書評で取り上げました。https://www.kansai-woman.net/Review.php?id=2022532023/06/23
アカツキ
14
アウシュヴィッツ強制収容所のファッションサロンでお針子をしていたユダヤ人女性たちについて書かれたノンフィクション。新しくやってきた女性入所者の尊厳を徹底的に痛めつける描写に胸が痛くなる。「あと10年早ければ…」どんな本になっていただろうと思うが、最後の一人に話を聞けただけでも奇跡。主な登場人物一覧がついているけれど、個性があまり見えなくて人物の把握に苦労した。同じく、手に職のある強みを活かして生還した「アウシュヴィッツの歯科医」を思い出しながら読んだ。2022/07/15