内容説明
今からおよそ600年前,和人が本格的に侵入する前の豊かな自然の中で,アイヌの人々はどんな暮らしを営んでいたのか.「いつも食べる物がある」という意味の名をもつアイヌの女性ハルコロの生涯を軸に,日々の手仕事や狩猟の様子,祭り,誕生と死にまつわる文化など,アイヌの世界を生き生きと描く物語.(解説=中川裕)※この電子書籍は「固定レイアウト型」で作成されており,タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています.また,文字だけを拡大すること,文字列のハイライト,検索,辞書の参照,引用などの機能は使用できません.
目次
第9話
第10話
第11話
第12話
第13話
第14話
第15話
第16話
第17話
解説 アイヌ ネノアン アイヌ
「ハルコロ」のこと あとがきにかえて
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふう
75
ハルコロ(たくさんの食べ物)という名の少女が、結婚して母になり、おばあさんになるまで物語が続きます。恋心も母としての思いもわたしたちと同じ。ただそこには先祖から口承で伝えられてきた神々の話やしきたりを持つ、ていねいで独特の暮らしがあります。やがてシサム(和人)によって徐々に脅かされていく悲劇が近づいてくる…というところで物語は終わります。差別につながると、アイヌという呼称を使うことが憚られた時代もあったと解説にありました。忘れてはいけない、無かったことにしてはいけない。むしろ大切なこの国の歴史です。2021/06/22
井月 奎(いづき けい)
42
国立博物館でアイヌ民族の資料を見たことがあります。素晴らしい技法で作られた衣装や生活用品の数々は、しかし色あせて生活のぬくもりは感じられませんでした。私の好きな奈良、そこでお会いする仏さまたちの枯淡の味わいはため息が出るほどに美しいのですが、古代仏教の熱は大分に冷めています。優れた物語は人々の思いや生活を時と場所を超えて瑞々しく私たちに教えてくれます。アイヌ民族が抱く神々や自然への思いの一端を自らの胸に、心に焼き付けることのできるすばらしい漫画です。良書、良作です。 2021/07/11
まると
24
第2巻はハルコロの息子が旅に出て、さらにその息子がハルコロのコタンへと旅に出るまで。そして「コシャマインの戦い」前夜の不吉な兆しが現れて終わる。自分をオレと呼ぶハポ(母)やフチ(祖母)たちの女言葉と「~なんでないかい」という北海道弁が入り混じった会話が創作的ながら和みます。ユーカラの伝えられ方も描かれていて勉強になりました。著者あとがきで、鳥の鳴き声のイメージが湧かない著者に茅野茂さんが電話口で「フ~チ~トット~」と歌ってくれたという逸話も印象的でした。次回以降、和人との戦いがどう描かれるのか楽しみです。2021/09/20
あきあかね
20
この続刊では、オペレ(おちび)だったアイヌ女性ハルコロは可憐な乙女へと成長する。ウナヤンケとの恋を軸に、美しい調べを奏でるムックリや、暗誦によって伝承されるユーカラなどアイヌの伝統文化が随所に織り交ぜられている。中でも、アイヌ民族の文化の精髄である、村の守り神のシマフクロウのイヨマンテ(神送りの儀式)は、詩情と余韻が漂っている。「冬の夜長を徹夜で過ごすイヨマンテの間 午前中は眠っている人が多く コタンも静かです」 「悪魔ばらいの先導として放たれた矢は 暗やみの無限の空間へと 本当に神の国までとどくかのよう2023/01/30
Bo-he-mian
16
アイヌの社会と文化を描いた先駆的漫画『ハルコロ』の完結編。前半は、ハルコロと村一番の美少女・ウマカシテ、ハルコロが密かに想いを寄せる隣村の青年ウナヤンケ、そして霊感イケメンのペケンノウクを巡る四角関係が描かれ、少女マンガのような展開(笑)の中にも、イヨマンテの儀式など、アイヌ社会のスピリチュアルな部分が描かれる。生きとし生ける者は、他の生命を食らって生きているのだけど、それを「食材」と呼んでしまう現代人と違い、「肉を有難く頂き、魂を神のもとへ還す」、生命への敬意を忘れない精神へのリスペクトを感じる。2021/07/17