内容説明
書物への耽溺、言葉の探求、読むことへの畏怖。
群像新人文学賞受賞作『十七八より』で瞠目のデビューを遂げた、
新鋭にして究極の「読書家作家」乗代雄介による渾身の中編集、ついに文庫化。
表題作のほかに「未熟な同感者」を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
94
読書家の話だと思っていたのですが、まるっきり異なっていて純文学作品でした。二つの作品が収められていて表題作は常磐線に話し手とその大叔父、乗り合わせた奇妙な人物の三者の話で一種の文学論のような感じでした。もう一つは「未熟な同感者」ということで様々な文学作品の引用が多くこれまた理解するのに大変でした。奇妙な物語ですが、何か惹かれました。2022/08/27
いっち
47
『未熟な同感者』について。『十七八より』で描かれていた高校生が、『未熟な同感者』では大学生になっている。「未熟」な「同感者」とは、主人公のことだろう。作中に「書けば過つ」とあり、「私はどうしても書かないではいられない未熟者」とあるので、「未熟」であるのは主人公だ。「同感者」とは、何かに対して「それはそうですね」と同意する人のことだとすると、主人公の、亡くなった叔母や、美人ゼミ生への態度が当てはまる。にしても難しい小説だ。わからない。わからないので再読するだろう。わかりたいと思わせる力が、この作品にはある。2023/09/05
サンタマリア
42
むぅ分からん、面白い。読みながら、なるほどとハテナが交互にくる。『本物の読書家』については、僕も主人公のようになることを恐れている。下手なことを言い恥を掻くぐらいならば、事実のみを述べ、自分の言葉は冗談に留めるのがよい。『未熟な同感者』、『誰かがその文章をそのように書いた。本を読む時に体験できるものはそれしかない。』『「完全な同感者」は、読まなければならない本を自らに指定することになる。』つまり、15000円もするカフカ全集を購入したとしても問題はなく、それどころか褒められるべき行為なのである!2022/07/24
おっしー
32
乗代作品2作目。表題作と「未熟な同感者」の二篇の中編が収録。率直な感想としては難解なこと言ってるな…って感じ。三島由紀夫やサリンジャーを登場させながら、書くことや読むことの真の意味を見つけようとする。うんうん唸りながら読んだ。前回読んだのが「十七八より」だったので、続編らしき「未熟な同感者」で、叔母との対話で悶々としていた彼女が大学に入って周りの同級生や教授とこれまた小難しそうに関わり合っているのが変わらないなぁと思った。個人的に二葉亭四迷の「実感の人」の話が面白く感じたので「浮雲」くらいは読みたいなと。2022/09/09
そふぃあ
22
「表題作」:読書家の理想の権化のような男が出てくる。本物の読書家という自称は、本を読んでいる自負がある人ほど忌避感が強くなって使わないと思うが、男は読書家の権化なので堂々と使ってくる。他の読書家の品定めにも遠慮がない。怖い。孤高ならぬ孤低(太宰治「徒党について」)のくだりは同族嫌悪すら覚える。「未熟な同感者」:"完全な同感者"とは同じ体験を共有し、言葉にせずとも分かり合える関係を指し、作中では宮沢賢治の"あれはさうですね"という言葉に凝縮される。美少女趣味的描写がちょっと。2022/08/03