内容説明
樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。
一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。
樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、
国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。
金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、
読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。
※この電子書籍は2019年8月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
おたま
142
樺太のアイヌであり、大日本帝国によって日本人として生きることになるヤヨマネクフ。ポーランド人でありながら、ロシアに故国を奪われ、皇帝暗殺に関わったとしてサハリン(樺太)に流刑になったブロニスワフ・ピウスツキ。彼等二人の人生の交差を中心に、故郷を奪われ、「国家」に翻弄される人々を描く群像劇でもある。国家は人々に様々な従属を強要するが、人々は故郷や人と人の関係の中で、時に生きることを励まされたり、時に強烈な「熱」を感じとったりする。1880年代から第二次世界大戦後までを描いた重厚な「熱」に満ちた作品。2022/12/02
サンダーバード@怪しいグルメ探検隊・隊鳥
121
直木賞と言う以外に何の事前情報も無く読んだ一冊。明治期に樺太で生まれたアイヌ、ヤノマネフク。政治犯として樺太に流刑となったポーランド人、ピウスツキ。強国に支配され異文化を押し付けられる人々。現在の日本と言う国に日本人として生まれ育った私には、「民族のアイデンティティを守る」と言う事が今ひとつ実感が湧かないのだが、それはある意味幸せな事なのだろう。読み進めていく内に「金田一京介」や「白瀬矗」など実在の人物が登場するので、おや?と思い調べてみたら、実話ベースのフィクションだったとは!これは驚きでした。★★★★2022/08/02
あきぽん
98
明治前期~第2次世界大戦にいたる樺太をめぐるアイヌ、ロシア、日本の壮大な群像劇。人間は自分がマジョリティであると快、マイノリティであると不快を感じる生き物だ。そんな中、宿命的にマイノリティである彼らは時代や運命に翻弄され、絶望を感じる時があっても力強く、生きる。漫画「ゴールデンカムイ」に挫折したけどアイヌについて知りたい自分は、この小説の文庫化を待ち望んでいました。2022/09/30
てぃと
96
樺太を舞台に、近代化の波に揉まれながらも自らのアイデンティティを通しながら生き抜いたアイヌと、祖国の独立運動に翻弄されるポーランド人の目線で描かれた群像劇。読みながら色々と考えさせられることも多く、心に響いてくるフレーズや場面も多々あって、生きることの尊さを強く感じさせてくれる良い作品だと思いました。とても面白かった!お薦めの小説です。2022/08/08
venturingbeyond
92
帝国主義の時代背景の下、文明の名の下での同化の暴力、あるいは剝き出しの暴力による併合により、自らのエスニックアイデンティティを否定される樺太アイヌのヤヨマネクフとリトアニア出身のポーランド人ブロニスワフ・ピウスツキの2人の主人公を中心に、1880年代からWWⅡ終焉までの激動の時代を描く大作。樺太・千島交換条約、日露戦争、そしてWWⅡ末期のソ連参戦と、樺太を舞台とする近代史の史実を表面的に知っている読者に、地べたの視点から、虐げられた側の生きる「熱」を伝える直木賞受賞も納得の傑作でした。2023/04/08
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