内容説明
堀江敏幸さん推薦!《二度の戦乱を生き、精神の危機を見すえていた詩人の声に耳を傾けながら、著者はそこに諦念ではなく希望を上塗りして、二十一世紀に生きる人間への信頼を言葉で回復しようとつとめた。稀有なユマニストの思索の跡がここにある。》
「わたしはおよそ四十年ぶりにパリにもどって来た」。一生をパリに捧げたフランス文学の泰斗が邂逅する、さまざまな時代の、記憶のなかの人々。みずみずしい最後の随想集。
「わたしを東京にひきとめるどんな係累も、どんな仕事も、すでになかった。そのときわたしは、古来稀なり、といわれる年齢に近づいていたけれど、歳など問題でなかった。残りの人生を賭けるつもりで、半分は運命のめぐりあわせを受け入れて、もう半分は自分の意志で、力が衰えはじめたからだを、若さの盛りにあったわたしを見守ってくれたパリの懐にもういちどゆだねてみようと、こころを決めたのだった。ある年の四月、わたしはおよそ四十年ぶりにパリにもどって来た」(本文より)
目次
1 パリが教えてくれたこと
2 黒い壁
3 パリは沈まない
4 機械文明のなかの人間
5 時代と戦う二つの知性
6 なぜパリでは外国人に道をたずねるのか
7 ヴァレリーは二十世紀芸術をどう見ていたか
8 幻の花、巴里に繚乱す
9 ヨハン・シュトラウスが聞こえてくる部屋
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うた
10
ポール・ヴァレリーは私にとって長らく興味はあるが、入り口のわからない作家だった。書名もテスト氏、精神の危機などと何やら難しそう。保苅先生は、自身のパリ体験とそんなヴァレリーの作品の数々を結びつけつつ、入り口を開いてくれる。この知性そのものであるような文人は、厳しく孤高で、しかし親しみを感じざるえない丁寧な言葉を使う。ちょうど今月岩波文庫のテスト氏が復刊されるし、早速読んでみることにしよう。2022/07/23
ありんこ
6
パリを訪れたことのない私は想像するしかありませんが、最近、フランス文学や芸術に興味が出てきました。ポール・ヴァレリーが批評した内容を、現代に生きる私たちに向けて保苅さんが分かりやすく美しい言葉で伝えてくださっています。その保苅さんも亡くなってしまったとのこと。読書をして、静かさに浸り、思索にふける時間を大切にしたいです。2023/10/08
PETE
4
ヴァレリーのヨーロッパの危機についての評論を解説し、晩年の活動を祖述しながら、そこに著者の留学時代のパリについての追憶と老いてからのパリ生活が結び合わせるエセー集。なのだが、ポモ・ポスコロの時代を経たはずなのに、「ヨーロッパ精神」やら「フランス」やら「フランス語」やらを無条件に賛美しているアナクロニズムには吐き気を覚えた。2022/12/13
霧
2
現代はヴァレリーの危惧した未来に直面している時代であり、本書は彼の明晰な文章を引用しそのことをわかりやすく解説してくれはするのだが、現在に対する不安を何かしら解消してくれるものを少しも提示してくれはしなかった。2022/11/15
NAGISAN
0
簡便に読める翻訳書の少ないP.ヴァレリー。プルースト研究者として著名な保苅先生の本書に巡り合えた。ヴァレリーの著作を通じて、「精神の絶え間ない堕落」は「存在の深みにある内面の静けさ」(=無我の状態)が失われたことにあることをフランスの成立ちや文化から解きほぐす。2019年9月~2021年1月号の「すばる」に掲載されたもの。流れるような文章は、パリの精神をこよなく愛された著者の姿が想像できる。晩年パリに居を移転された由、2021年7月、パリで逝去と書かれている。プルースト関連の著作も読ませていただきます。2023/04/08
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