ちくま新書<br> 愛国の起源 ――パトリオティズムはなぜ保守思想となったのか

個数:1
紙書籍版価格
¥946
  • 電子書籍
  • Reader

ちくま新書
愛国の起源 ――パトリオティズムはなぜ保守思想となったのか

  • 著者名:将基面貴巳【著者】
  • 価格 ¥880(本体¥800)
  • 筑摩書房(2022/06発売)
  • ポイント 8pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480074843

ファイル: /

内容説明

「愛国」思想は現在、右派や保守の政治的立場と結びつけて語られる。しかしその起源は、かつて古代ローマの哲学者キケロが提唱したパトリオティズムにあった。フランス革命では反体制側が奉じたこの思想は、いかにして伝統を重んじ国を愛する現在の形となったのか。西洋思想史における紆余曲折の議論を振り返り、尊王思想と結びついた明治日本の愛国受容を分析、さらに現代のグローバルな視点からパトリオティズムの新しい可能性を模索する。

目次

はじめに
「愛国」のイメージ
今なぜ「愛国」なのか
「愛国」=パトリオティズムの思想史とは
歴史の中で概念は変化する
「パトリオティズム」と「愛国」
本書の構成
第1章 愛国の歴史──古代ローマからフランス革命まで
1 古代・中世初期のパトリオティズム
「愛国」の由来は「パトリオティズム」
キケロによる二つのパトリオティズム
アウグスティヌスによるキリスト教的パトリオティズム
2 中世・近代初期のパトリオティズム
「祖国のために死ぬこと」
選ばれた民
共通善の敵とは誰か
外国人に開かれた共和主義的パトリオティズム
ミルトンと「どこであれ自分がよく生きられるところ」
共通善か国王か
王党派パトリオティズムの特徴
教皇と国王の二者択一
3 一八世紀のパトリオティズム
伸縮自在な祖国愛
フランス革命と「国民」の誕生
ナショナリズム的パトリオティズムの誕生
国民意識形成のプロジェクト
普遍と個別という矛盾する要素
反体制的だったナショナリズム
第2章 愛国とは自国第一主義なのか
1 「普遍的慈愛」とは何か
愛国はなぜ「保守」の思想になったのか
自国第一主義の萌芽
フランス革命をめぐる大論争
プライスとバークの先駆者
ハチスンのコスモポリタンなパトリオティズム論
距離が近ければ共感しやすい
人類愛と祖国愛
2 プライス・バーク論争
プライスの「祖国愛について」
ナショナリズムと外国人嫌いの台頭
「虚偽でいかがわしい」パトリオティズム
「保守主義の父」バークのフランス革命批判
パトリオティズムを換骨奪胎したバーク
第3章 愛すべき祖国とは何か
1 「パトリア」概念の変遷
ヴォルテールとルソーの「パトリ」
「パトリア」と英語訳「カントリー」の違い
自国の風景を愛する祖国愛
ロマン主義と自然的祖国の肥大化
2 保守的パトリオティズムの誕生
家族愛や近所付き合いの先にある「国」
「伝統」としての「国」
保守的パトリオティズムの誕生
スミスの共感理論によるキケロ的パトリア概念の解体
理想の追求か現状肯定か
家族愛を基本とする祖国愛
プライス・バーク論争に見る政治的な歴史解釈の対立
近代ナショナリズムと保守的パトリオティズムの接点
3 保守的パトリオティズムの台頭と共和主義的パトリオティズムの退潮
バーク以後の論争
自国の伝統を愛する「真の愛国者」の登場
一九世紀イギリス知識人とパトリオティズム
第4章 愛国はなぜ好戦的なのか
1 フランス革命と軍事的パトリオティズム
市民に広まる〝愛国〟
「貴族」は本当に「高貴」なのか
「貴族」をめぐる論争
「貴族である」ことと「貴族らしくする」こと
愛国心とは無縁のフランス軍隊
フランス革命と軍隊の近代化
ナショナリズム的な軍事的パトリオティズム
2 軍事的パトリオティズムの「熱狂」
フランス革命の「熱狂」
「熱狂」するパトリオティズムの正体とは
新しい軍事的パトリオティズムの衝撃
好戦と反戦の「空白」
第5章 近代日本の「愛国」受容
1 「パトリオティズム」から「愛国」へ
見慣れない日本語だった「愛国」
国のために戦う「報国」
近代スポーツと軍事の結びつき
福沢諭吉が説いた「平時のパトリオティズム」
思慮か本能か
戦争と「報国心」
福沢諭吉にとってのパトリア
キリスト教と博愛主義
2 明治日本の保守的パトリオティズム受容
尊王愛国
欧米保守思想の輸入
金子堅太郎によるバーク愛国論
明治日本の愛国思想
第6章 「愛国」とパトリオティズムの未来
1 私たちにとってパトリアとは何か
現代社会とパトリオティズム
バークの呪縛
「バークを殺す」
私たちにとってパトリアとは何か
憲法パトリオティズム
環境パトリオティズム
国家を超えるパトリア
2 現代日本の「愛国」とパトリオティズム
バーク路線の「愛国」的道徳教育
現代日本の「愛国」の問題点
「反日だ」という罵声にどう答えるべきか
私は「パトリオット」
それでもパトリオティズムは必要なのか
「である」から「する」へ
あとがき
主要参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ふみあき

25
古代ローマにまで遡れば、パトリオティズム(愛国)の内実は多様で、忠誠の対象が「郷土」ではなく「共通善」であること(共和主義的パトリオティズム)もあったが、近代以降はバークの登場によってナショナリズム的(あるいは保守的)パトリオティズム一択になってしまった。著者は「バークの呪縛」から解放され、憲法パトリオティズムや環境パトリオティズムに替えるのが望ましいと、ミルトン、ヴォルテール、モンテスキューら、当時のコスモポリタンたちの言を引っ張ってきて主張する。が、グローバル・エリートの傲慢さの臭いがしないでもない。2022/06/14

無重力蜜柑

22
良著。「愛国」概念を巡る思想史だが、英語だとパトリオティズムであるこの言葉が愛「国」と翻訳された経緯まで説明してる。もともとパトリオティズムというのは究極的な忠誠の対象である「パトリ」のために献身する姿勢のことで、近代的な意味での国=国民国家とは限らない。源流はキケロの論じた二つのパトリで、市民的パトリは市民としての義務を負う法的共同体のこと、逆に自然的パトリは生まれ育った村や町のこと。さらにパトリオティズムにも平時のものと戦時のものがあるが、本書の主題はこの「パトリ」とは何かということだ。2022/10/04

buuupuuu

16
パトリオティズムとは共同体への義務や献身である。古代や中世のそれらを一括りにすることはできないが、それでもそれらとバーク以降のパトリオティズムの間には断絶があるという。近代以降のそれは、自国第一主義と結びつき、共同体の紐帯を家族等の愛着関係の延長と捉え、伝統や歴史をこそ我々が守るべきものと考える。ここに我々にも馴染みのある愛国主義が誕生する。ともあれ、現代のような個人主義の時代にパトリオティズムを考えることは、我々が何に生かされ、共同で何を守っていくべきかを考える思考の枠組みを与えてくれるのではないか。2022/07/19

masabi

13
【概要】愛国と訳されるパトリオティズムの変遷を解説し、現代に相応しいあり方を模索する。【感想】パトリオティズムは現在では国家に対する究極的な忠誠、献身と解される。しかし、歴史的にはその対象は近代国家に限らず、時に国家を超えて市民的自由や共通善が献身の対象になった。筆者が模索するのも、自国愛を抑制し世界規模の問題を解決に導く原動力になる新たなパトリオティズムだ。その具体例としてルールとプロセス、環境を挙げる。ただ、行動するだけでなく献身する覚悟がそうそう芽生えるのか疑問がある。2022/11/09

たか

8
「愛国」の源流であるパトリオティズムの歴史を紐解き、いわゆる愛国がバークによって再解釈された一形態であることを明らかにし、未来に向けたあるべきパトリオティズムを考える。「国」がパトリアであることは自明でない。予め定まったアイデンティティを守る態度ではなく、それぞれがヴィジョンをもち実現を目指す行為こそを重視すべきという結びに共感。普遍主義的な価値観をナチュラルに上位に置いている点は気になるが。またバークの否定的な部分に多く言及されているが、宇野重規『保守主義とは何か』のバーク評をみるとまた違う印象がある。2022/12/31

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/19822319
  • ご注意事項

最近チェックした商品