内容説明
魂は肉体とともに消滅する存在であるのに,なぜ人は「あの世」というフィクションを創造するのだろうか.俳人は,癌という病を得て,生老病死をまるごと包み込む俳句の宇宙にあらためて向き合い,生と死にまつわる世界の壮大な仕掛けを考えた.俳諧の奥深さを伝える実作者ならではのエッセイ.「図書」好評連載,待望の書籍化.
目次
はじめに
第一章 癌になって考えたこと
第二章 挫折した高等遊民
第三章 誰も自分の死を知らない
第四章 地獄は何のためにあるか
第五章 魂の消滅について
第六章 自滅する民主主義
第七章 理想なき現代
第八章 安らかな死
おわりに
俳句索引
短歌索引
人名索引
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
みつ
19
そういえば「人間探求派」と呼ばれる俳人たちがいたなあ、草田男、波郷、楸邨、皆好きな俳人だなあ、と中途半端な知識と興味で手に取った本。実際は皮膚癌の告知を受けた著者が、死病に直面した子規や漱石についての想いを綴るとこから始まる。そこから芭蕉、さらには東日本大震災と原発事故、先の沖縄戦、平知盛、西行法師、丸谷才一、大岡信など、様々な状況と人の死を巡る省察が続き、現在の社会状況に至る。自らの癌を基調低音としながらも取り止めのない構成は、『図書』連載をまとめたが故か。引用俳句・短歌が巻末索引に纏っているのは便利。2022/07/04
井の中の蛙
8
俳句と共に筆者の思想が色濃く語られたエッセイ。2024/06/15
Eiko
8
長谷川櫂の句集は読んだことがないけれど、新書版のものは何冊か読んでいる。朝日俳壇の選には「なるほどなぁ」と毎週思う。そうか、がんを患っていらしたんだと驚く。大体同世代だから、他人事ではない。大病という点ではワタシも何度か手術台に乗っているが、手術して患部を取ってしまえば完治というほどのことだから、死を意識したことはない。知識人(あってるかなぁ)は、自身の病さえも思索の種にするんだと思った。芭蕉の『古池や蛙飛び込む水の音』の解釈は長谷川櫂のどの本にも出てくるが、読む度に俳句って難しいと再確認する。2022/05/16
peace land
3
著名な人物について、氏の表現に改めて考えることがあったり、社会や生命、宇宙についての考えも興味深かった。2023/02/24
okatake
3
岩波のPR誌『図書』連載のエッセイの書籍化。自身の癌が見つかり、人間の死とは、生とはを考えた思索の書。 俳句だけではなく、多彩な文学をヒントに人生の深淵を探る。言葉を使うようになった人間だからこその苦しみについて特に語っているのが印象的です。2022/10/01




