内容説明
夫と死別し、神とは何かを求めてパリに飛び立った私。極限の信仰を求めてプスチニアと呼ばれる、貧しい小さな部屋に辿り着くが、そこは日常の生活に必要なもの一切を捨て切った荒涼とした砂漠のような部屋。個人としての「亡命」とは、神とは、宗教とは何か。異邦人として暮らし、神の沈黙と深く向きあう魂の巡礼、天路歴程の静謐な旅。
著者を敬愛する芥川賞作家石沢麻依による解説を巻末収録。
……私は、内部からパアッと照らしだす光の中にいた。生まれて以来、何処にいても、居場所でないと感じつづけた、わけが、わかった。わかった、わかった。と、何かが叫んでいた。逆なのです、わたしたちすべて、人間すべて、あちらからこちらへ亡命してきているのです。あちらへと亡命するのではなく、この亡命地からあちらへ帰っていくのです。かつて、そこに居たのですから。”──本文より
芥川賞作家石沢麻依さん大推薦! 待望の文芸文庫化。
「『亡命者』は私にとっても思い入れの深い作品です。初めて読んだ時は、それまでの作風との違いに困惑したものの、最後のページにたどり着く頃には、深い白と青の光景に言葉を失くしました。入れ子構造の巡礼世界に、こんな領域まで言葉がたどり着けるのか、と畏れも感じた覚えがあります。そして、現在、自分がドイツにいることにより、個人としての「亡命」とは何なのかを考えさせられています。」
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
kaoru
81
1995年刊行。半年ごとに滞在延許可証を得ながらパリに住む主人公は内なるマグマについて修道女と語り合ううち禁欲的な部屋で神の沈黙に向かい合う「プスチニア」(砂漠)という信仰の形態に惹かれる。修道会で会ったアニーとダニエルという男女が、愛し合いつつも「霊としての兄妹」として生きることを選択する過程が入れ子のような『小説 亡命者』に描かれる。最後にダニエルによる手記の中に登場する青い水の夢。戦後の日本が戦争責任を取らないで来たことへの批判は今読んでも鮮烈である。アルジェリア戦争についてマリ・リュス→ 2022/09/18
しずかな午後
17
プスチニアという信仰のかたちがある。生活に必要な最低限の暮らしをしながら、小さな部屋で、ひとり神への信仰に包まれること。日本からパリへ移住した「私」もまた、そうした生き方に惹かれ、各地の修道院に滞在しつつ、貧しいアパートの一室で瞑想的な時間を送る。そして小説は、修道院で出会った印象的な男女をモデルとする作中作へ移り、さらに彼らの残した手記へと移る。信仰というものの、より深く、より根源へと遡及していき、イスラエルの白い砂漠を流れる青く澄んだ水のイメージの中にすべてが融けていく。全編が暗喩と詩情に満ちている。2024/05/19
真琴
13
★★★★★ 夫と死別しパリにやってきた「私」は、プスチニアと呼ばれる信仰にたどり着く。プスチニアとはロシア語で砂漠を意味する。「私」が「国境」を越え「亡命」してきた先に見出した信仰の形が描かれる。あらゆる合切を削ぎ落とした生活の中での信仰の姿は静寂に包まれながら、己の内面と奥深く対話し神の声を聞く姿に、熱い魂の声が伝わってくるようでした。2023/03/07
ひでお
10
宗教を信じているいないにかかわらず、生きていくには多くの壁があって、それをくぐり抜けると新しい意味が見えてくるのかもしれないです。それを亡命者と呼んでいる著者は実際に観想修道院で生活したとのことで、私の理解が足りないところが多いですが、伝わるものはありました。また、三重構造になっている本書はそのひとつひとつが壁をこえるようなイメージでした。2023/05/07
けいこ
9
冒頭の「自分の存在がたった1枚の紙で証明されている」という心細さ。何だかふわふわ浮遊しているような。自分の内部へ内部へ潜っていくような観想的な暮らし。静寂へ静寂へ。隠遁者へ。まるで観ている世界が違うから、難しく感じました。2022/06/29
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