内容説明
少子化・人口減、気候変動、パンデミック……。国力が衰微し、手持ちの国民資源が目減りしてきている現在において「撤退」は喫緊の論件。にもかかわらず、多くの人々はこれを論じることを忌避している。
名著『失敗の本質』で言われた、適切に撤退することができずに被害を拡大させた旧・日本陸軍と同じ轍をまた踏むことになるのか?
「子どもが生まれず、老人ばかりの国」において、人々がそれなりに豊かで幸福に暮らせるためにどういう制度を設計すべきか、「撤退する日本はどうあるべきか」について衆知を集めて論じるアンソロジー。
目次
まえがき 内田樹
■1 歴史の分岐点で
撤退は知性の証である──撤退学の試み 堀田新五郎
撤退のための二つのシナリオ 内田樹
撤退戦としてのコミュニズム 斎藤幸平
民主主義からの撤退が不可能だとするならば 白井聡
撤退戦と敗戦処理 中田考
■2 撤退の諸相
撤退という考え方──ある感染症屋のノート 岩田健太郎
下野の倫理とエンパワメント 青木真兵
音楽の新しさはドレミの外側にだって広がっている 後藤正文
文明の時間から撤退し、自然の時間を生きる 想田和弘
撤退のマーチ 渡邉格
撤退女子奮闘記 渡邉麻里子
■3 パラダイム転換へ
『桜の園』の国から 平田オリザ
ある理系研究者の経験的撤退論 仲野徹
Withdrawalについて──最も根っこのところからの撤退 三砂ちづる
個人の選択肢を増やす「プランB」とは何か 兪炳匡
極私的撤退論 平川克美
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
けんとまん1007
65
撤退というのは、無理・無駄・ムラを無くし、本来あるべき姿に向かうということ。成長というまやかしの2文字に、いつまで拘り、次の世代の希望を無くすのだろうか。人が人間らしい営みに向かうこと。成長の2文字のメッキが剥げてきた途端、ウェルビーイングだの関係人口だの、あまりの拙さに辟易する。持続可能・・も、今、言われている前提から疑ってかかることからだと思うのだが。2022/09/05
うわじまお
34
結局は、世界中の人間が推し進めている環境破壊、行き過ぎた資本主義経済、そして日本の少子高齢化が問題。この本、読めば確実に暗い気持ちになれます! 地球人全員がどこかで立ち止まらなくては、近い将来、本当にやばいことになる。そのことをいろんな”頭のいい人”が論じている一冊です。2022/11/01
まいこ
28
成長や拡大の時代の成功体験を覚えている世代が日本を動かしているし、人類史でもシュリンクしてソフトランディングなんて経験はないのかもしれないし、拡大よりも縮小には知恵がいる。急成長していた昭和の頃の制度設計も見直さないといけないけれど、年金にしても日本型雇用にしても新幹線計画にしても「あがり」の世代が上にいると難しい。撤退の局面に入っていることを話題にするのがタブーなのは、周知されればますます産まなくなってそれが加速するからでは。2022/10/25
みねたか@
22
世界的な資源の枯渇、地球温暖化、国内を見れば超高齢化、人口減少、国力の衰えていく中での政治の停滞。この国が、又はこの国で生き残っていくために何をすべきか。内田氏をはじめ白井聡、斎藤幸平などおなじみの論客が寄稿した作品集。平川克美氏が自らの事業撤退に至る過程とその後を綴った「極私的撤退論」が強く印象に残る。2023/11/26
ta_chanko
22
文明化、都市化、経済成長、新自由主義、選択と集中…。これによって確かに人類(の一部)は豊かで便利な社会を築いてきた。しかし、それを実現・維持するために地球環境を破壊し、周辺から富を搾取し、豊かな自然や時間など、さまざまなものを犠牲にしてきた。その結果が気候変動・少子化・パンデミック…。これから人口が激減していく日本社会において、「撤退」という考え方が不可欠となる。できるだけソフトランディングのかたちで。成長・発展といった直線的な時間思考だけでなく、持続可能で循環的な時間・空間思考が求められていると思う。2022/06/01