内容説明
「迎えに来ました」――人を天国へと導く幻獣「しゃもぬま」が祐のもとに突然やってきた。特産品の夏みかんと並び地元の島で有名なその生き物は、死後必ず天国へ行くことから、神聖視されている。そして、自らの死期が近づくと、島の人を死へ誘うという。逃れる方法は一つ、しゃもぬまを誰かに譲ること。微妙な距離感の幼馴染姉妹や、父親を教えない母へのわだかまりを抱え、生と死の狭間で揺れる彼女が導き出した答えとは。心に傷を持つ女性の葛藤と再生を描く幻想奇譚。第32回小説すばる新人賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マーム
69
死期を悟ったとき、誰かを天国に一緒に連れて行ってくれることがあるという不思議な生き物と共生する島。そんなしゃもぬまが何故か島を出て暮らしている主人公のところにやって来ることから始まる物語。この生き物は死期が迫った者のところを訪れ天国に導く役目を担っているのかと思いましたが、その訪問を受けた者は死ななければならない、あるいは身近な者を身代わりにしなければならないという極めて不穏な存在でした。とはいえホラー作品が得意ではない私でも怖がらずに読み進めることができる不思議な雰囲気を纏った物語、いや、生き物でした。2024/04/11
tenori
44
人間以外の動物や植物は生死を意識しているのだろうか。生と死。時間軸の往来。夢とうつつ。人間がそれらの境界線上で頼りなく存在しているのに対して、しゃもぬまはディテール設定を含めて、実在しないはずなのに圧倒的に存在している。地に足がついている。繰り返される人間の煩悩は『死ぬことよりも、ふわふわと生きている現実のほうが恐ろしい』ことなのではないかとすら感じさせる。『島』の閉塞性の中にあって随所で織り込まれる夏みかんの描写も鮮烈。美しく、難解で哲学的なファンタジー。2024/04/09
ひろ
28
人を死に誘い、天国へと連れていく不思議な動物、しゃもぬま。しゃもぬまが主人公の元に現れたことをきっかけに、過去を紐解いていく幻想奇譚。生と死。虚構と現実。境界が曖昧でしっかりとした足がかりが見つけられない。緩やかに紡がれていく物語を追っていると、まるで長い夢を見ているかのよう。それぞれの場面は印象的でありながら、立ち上がってはふっと消えていく。水のように滑らかな清酒を呑んだときの如く、気付けば作中世界に溺れていた。この不思議な読了感は忘れられない。2022/08/26
みやび
21
夢と現実の世界をふわふわと行きつ戻りつしながら、ゆったりと物語が進んで行く。捉え所のない感覚がこのままずっと続くなら苦手だなぁと思っていたけれど、途中からしゃもぬまの存在が気になって、気付いたら物語世界にふらっと入っていけていた。「迎えに来ました」人を死へと誘い、共に天国に連れていってくれるというしゃもぬま。幻獣だけど、ちゃんと食べて糞をして散歩もする。命をリアルに感じる分、愛着も湧く。しゃもぬまが象徴するものは何なのか?最後までそれを考えながら読み終えた。2023/08/14
momi
18
★★★☆☆2022/08/09
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- 電子書籍
- ドケチで上等っ!! 【単話売】 - 本…