内容説明
“ここではないどこか”を求めつづけ、最後には日本で「移民作家・小泉八雲」となった男ラフカディオ・ハーン。彼の人生に深く関わった3人の女性が、胸に秘めた長年の思いを語りだす。生みの母ローザ・アントニア・カシマチは、1854年、故郷への帰路の途中アイリッシュ海を渡る船上で、あとに残してきた我が子の未来を思いながら。最初の妻アリシア・フォーリーは、夫との別離を乗り越えたのち、1906年のシンシナティで、ジャーナリストの取材を受けながら。2番目の妻小泉セツは、永遠の別れのあと、1909年の東京で、亡き夫に呼びかけながら。ジョン・ドス・パソス賞受賞の注目作家が、女性たちの胸の内を繊細かつ鮮やかに描いた話題作。
目次
小泉八雲
ラフカディオ・ハーン
小泉セツ
ヘルン先生
怪談
日本の面影
耳なし芳一
松江 熊本
夏目漱石
移民作家
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Willie the Wildcat
70
『文豪夏目漱石』で、漱石氏の八雲評を拝見し、本著を手に取る。エリザベス、アリシア、そしてせつ、3人の女性の視点を通した半生記。複雑な家庭環境と独学、辿り着いたシンシナティでの記者職が、再出発の起点。翻訳・執筆業が日本への架け橋となり、滞在先で運命の出会い。せつの物語好きが、「ヘルンさん言葉」を経て氏の執筆の素材に転換。思いの込められた手紙、そして思わずグッとくる最期の場面。”猫のヒノコ”も印象的。一方、東大での氏無念の思いを知る漱石氏。国籍変更を含め、時勢が八雲を縛る感。2023/06/30
キムチ
61
初読の女性作家。6歳でベトナム難民として米移住。一人の男性(P・R・ハーン)に関わりを持った3人の女性の言葉を通して ハーンを浮き上がらせる試み。①生母カシマチ:ギリシャ圏支配階級の出自、軟禁的家庭環境から逃れるべく英士官と恋に。渡英したが異端視的温度に耐えられず帰郷②渡米したハーンが最初に結婚した相手アリシア:米南部元奴隷、語り合う関係から非対称化、別離③有名な日本人妻セツ:パパさん、ママさんと呼び合う温もりのある家庭を築けた④3人3様の語りがシャッフルされるが如く、ハーン研究家ビスランドの書簡抜粋が。2022/05/19
たま
44
ラフカディオ・ハーンにゆかりの女性たち、母(ギリシャの島でアイルランド系軍人の子を産む)、アメリカの妻(アフリカ系女性でシンシナティで下宿屋の料理人、南部料理の描写がいい)、日本の妻(士族出身で生家と養家両方の家族を養う)の語りとハーン評伝の抜粋から成る。19世紀後半帝国主義時代、抑圧のもとで生きる〈現地妻〉たちが、ハーンとの感情のあや、自分なりの打算を、言葉がまともに伝わらないことを危ぶみつつ(文盲だったり英語を解さなかったり)語る。着想が面白く、語りの細部の豊穣さ、異国情緒が実に魅力的な本。2022/06/19
星落秋風五丈原
22
3人の女性が語るラフカディオ・ハーン。2022/05/07
くみこ
20
三人の女性が語るラフカディオ・ハーン。生みの母ローザは、イギリス領だったギリシャの島で産み手放した"パトリシオ"を、アメリカでの最初の妻アリシアは、"パット"との出会いから別れまで、小泉セツは、出会って子供をもうけ、最期を看取った"八雲"を。エリザベス・ビスランド著「ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡」が、三人の語りの間に挟まれます。文字を奪われたり、言葉に不自由した女たちによって語られる、いくつもの国境を越えた作家の姿。浮かび上がったハーンの人生も、女たちの背景も、複雑で読み応えのあるものでした。2022/06/23