内容説明
相次ぐ戦勝で絶頂期に達した明治国家は、その後どのように変貌し、敗戦による陸海軍崩壊に至ったのか。天皇と皇族軍人の同調と不和の構図を追いつつ、日露戦後よりアジア・太平洋戦争終結にいたる、天皇を大元帥とした軍事システムの全盛から崩壊までを描き出す。世界の軍事的緊張のなか、再軍備を余儀なくされている現代日本社会に警鐘を鳴らす。
目次
天皇は再び軍事指導者となるか?―プロローグ/第一次世界大戦期の皇室と軍事(軍務にむかなかった大正天皇/「箱入り教育」の皇太子/第一次世界大戦前後の皇族と華族)/軍縮から軍拡へ(大元帥の周辺/孤立する大元帥/大元帥と皇族軍人の確執/戦時下の皇族と華族)/大元帥裕仁の戦争指導(拡大する戦線/開戦からミッドウェー海戦まで―戦略的攻勢の段階/ガダルカナルの攻防から「玉砕」へ―戦略的持久から守勢の段階/戦争終結への模索―絶望的抗戦の段階)/戦火を広げた歴史を負う天皇家―エピローグ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
高木正雄
4
皇族軍人といっても昭和天皇や伏見宮、閑院宮、高松宮が中心になるのは仕方がないかもしれない。海軍を志した皇族の病死の多さとか、賜姓華族の戦死や香淳皇后の病院慰問なども掘り下げてほしかった。昭和天皇の賀陽宮への不信感と伏見宮の老害化はよくわかった(笑)2024/02/16
さとうしん
3
「大元帥と皇族軍人」とあるが、皇族軍人よりは大元帥、特に昭和天皇の動向の比重の方が重い。また、尾張徳川家の徳川義親や、東条英機との対立で知られる前田利為といった華族軍人についても取り上げる。皇族軍人については伏見宮博恭王や閑院宮載仁親王が「老害」化していたこと、また敗戦後に戦犯となってもおかしくない立場であったのに、おそらくは昭和天皇の身代わりとして収監された梨本宮守正王以外は赦免されたことなどを指摘する。2016/09/08
秋津
1
大正・昭和期における天皇、皇族、華族の果たした軍事面での役割について考察した一冊。摂政時代も含め、特に昭和天皇の動向について紙幅の多くが割かれていますが、軍の最高指揮者としての昭和天皇が、軍の「長老」としての皇族軍人や弟宮、そして政府、軍部などの間にあって下問、意見、叱責など、その時々に応じた行動をとっていた様子を大変興味深く読みました。2016/08/02