内容説明
世界で一番海から遠い都市、中国アルタイ地方から届いた極上の紀行エッセイ。著者と、新疆ウイグル地区アルタイ地方にある冬の牧場で遊牧をしているカザフ族との約3カ月にわたる心温まる交流が綴られている。遊牧民の生活は、中国の政策によって近いうちに遊牧民たちも定住を選ぶ時代になるかもしれないという時代に、非常に貴重な記録ともなっている。
目次
第一章 冬の住処 第二章 荒野の主人第三章 静けさ 第四章 最後の出来事
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
spatz
15
極限の自然の中にいる、ということは、人の生の営みを、ただただ、生き延びること、に収斂された極限のレベルまで結晶のように半端なく研ぎ澄ます。大自然の中では人間なんてちっぽけだ悩みなんて小さい、と感じる、とはよくいうが、それを生と死の極限まで突き詰めたようなものだ。 新疆ウイグル地区ウルムチ在住、という言葉だけでもいろんなことが想像できる。 https://www.netgalley.jp/catalog/book/242679 2021/12/18
あかぽち
13
カザフ族の遊牧民と過ごした一冬の体験記。毎日、極寒のなかの放牧、水を求めて砂漠の雪を探しあるいたり、好き勝手に移動するラクダたちを連れ戻したり。なんて過酷な生活。でも大きな空に浮かぶ星空や楽しい家族との会話に大変な日々を忘れそうになる。中国の政策で遊牧民族も変わっていくのだろうか。彼らにとって良いほうに変わればいいな。2022/06/16
遠い日
10
ゆっくりゆっくり読み直す。李娟が見て、体験して、書いたカザフ族の遊牧民との暮らしには、わたしが想像できない文化と蓄積された慣習がたくさん登場する。極寒の砂漠、水の確保さえ難しい中で粛々と営まれる冬牧場。ラクダやヤギ、牛の放牧は気の遠くなるような距離を移動させ、食べさせ、連れ帰る。客人には大いに食べ物とお茶を振る舞い、お互いの信頼を見せ合い、築く。でなければ茫漠たる砂漠で人はただの記号のような存在になってしまう。中国政府の政策で「失われる遊牧生活の最後の姿」を記すことに李娟はある種のやるせなさを感じている。2022/02/01
あっくん
9
久々に中国現代文学作品を手に取った。 魯迅文学賞受賞作でノンフィクションのルポ。新疆ウイグルのカザフ遊牧民族と行動を共にした筆者が、知られざる遊牧生活を描く。まずは巻頭の写真の数々が印象的。とにかく雪で白一面の世界が果てしなく広がる。それはアラスカや南極といった極地とは違う白さ。少し埃が混じっている、例えれば「生物の薫りが残る」白さだ。その中で遊牧民たちは馬や羊といった家畜たちと生きている。特にドラマは起きず、淡々と日々お茶を飲み、家族と語らい過ごす。そもそも「日常」とは何か?を問いかけたくなる作品。 2022/09/11
遠い日
8
新疆ウイグル自治区にて3か月に及ぶカザフ族の遊牧民との暮らしを事細かに綴ったエッセイ。だが、衝撃的な現実として迫るものがあった。ことばも満足に通じないジーマ一家と、慣れぬ遊牧の仕事をし、圧倒的な確かさでそこにある大地と空の下で感じることどもの手応えに、生きることのひとつの真実を見る思いがした。愛すべき変人のジーマの言動には李娟の素直な揶揄が逆にユーモアを放つ。等身大のことばで書き綴る日々は、きっとその奥に生と死の思惟もあったに違いない。彼らには今は会うことも叶わない現実が、この世界を一層堅固な印象で象る。2021/12/27




