内容説明
「高貴な人々」のイメージ・誤解・実情
イギリスの20世紀以前の小説や演劇には、アッパー・クラス(貴族だけでなく、ジェントリと呼ばれる地主を含む)の人物が必ずと言ってよいほど出てくる。それは、彼らが政治だけでなく、文化の形成にも大きな役割を占めているからである。イギリスの国民性とされるもの、たとえば冷静さも、もとはアッパー・クラスのものだという。
彼らは、長男がすべて受け継ぐ相続制度によって爵位と土地を守ってきた。一方でこの制度は、相続する長男にも、もらえるものがはるかに少ない次男以下にとっても、それぞれに苦労をもたらした。そしてそうした苦労が、しばしば文学や芝居のテーマともなってきた。
では、アッパー・クラスの人々は、イギリス国内でどういうイメージをもたれ、その裏側にはどういう苦労や事情があったのか? 財産を維持する手段としての結婚、知的でないと言われてきた彼らの教育、次男以下の職業事情、そして奇人伝説の裏話までを、本書は文学や著名な人々の例を通して、背景事情とともに読み解いていく。人気のweb連載に大幅加筆のうえ、イギリス人ですらしばしば間違える、貴族の称号の複雑なシステムの一覧表を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
122
なぜ英国ミステリには遺産相続絡みの殺人が多いのか。上流階級と庶民の格差と古い慣習が、繰り返し文学や映画の主題になるのはなぜか。ほとんど政体の変更を経験せず長子相続制が長く維持された島国で、他に見られない独特の価値観と国民性が形成されていった結果だったとは。誇り高い一方で金持ちのアメリカ人女性と結婚したり、高額の税金を払うためカントリーハウスを公開するなど現実的な世故に長けている矛盾が面白い。同じ島国ながら明治維新と敗戦ですべてがシャッフルされた日本と比べ、固守すべきものを持つ国と国民の強さが見えたようだ。2022/03/14
南北
57
イギリスの貴族や爵位はなくても由緒正しい家柄の人々についてついて書かれている。まずは貴族に対する手紙の宛名や社交の場での呼びかけ方に圧倒される。爵位は基本的に長男が受け継いでいくので、長男と次男以下の呼び方が異なっていたり、夫人への宛名から離婚していることや元夫の貴族が再婚していることまでわかってしまったりする。そんな上流階級だが、地主としての収入が減ってしまったため、館を観光客に公開することで維持したりして、いろいろ苦労が絶えないようだ。興味深い点も多く、文学作品を読む上でも参考になると思った。2022/02/02
サアベドラ
32
ドラマ『ダウントン・アビー』やジェイン・オースティン、イーヴリン・ウォーの小説などに登場する19世紀~20世紀の英国の上流階級(アッパークラス~アッパー・ミドルクラス)について、称号や結婚と相続、所領の維持、教育などのトピックを文学作品などをソースに解説した本。2022年刊。著者の専門はイギリス文学における社会階級の表象で、本書以外にもイギリスの様々な社会階級に関する著作が多数ある。『ダウントン・アビー』以外ほとんど知らないレベルで手に取ったが、まったく知らない世界を垣間見ることができて十分楽しめた。2022/07/22
ごへいもち
22
やっと読了。面白く読みました。久しぶりにちゃんとした本を読んだかも2022/08/23
グラコロ
18
“ダウントン・アビー”でおなじみの長子相続制度は、アッパークラスを別格なものとして存続させるには有効だったろうけど、スペアの次男坊や三男坊はアッパー・ミドルクラスに降格され、せめて法廷弁護士、だめなら聖職者として自立しなければならない。娘たちはもっと悲惨で、ろくな教育も受けさせてもらえず、一流の教育を受けた米国のコケティッシュな金持ち娘たちに貴族の妻の座をさらわれる。まだその伝統はしぶとく生きてたりする。ああ、英国貴族の娘には生まれたくないものよ〜。2023/09/08