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内容説明
奇蹟によってカトリックに回心したフリーメーソン会員のアンティムと、幽閉されたローマ法王を救い出すという詐欺を企てる《百足(むかで)組》の首領プロトス。そして、予期せぬ莫大な遺産を手にしながらも「無償の行為」に走る19歳の青年ラフカディオ。登場人物それぞれに起こる偶然の出来事が複雑に絡み合う。時代を画したジッドの傑作「犯罪小説」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まふ
100
初読である。「茶番劇」と自ら分類しているようである。内容は誘拐された法王を救うべく資金を募るという素朴で敬虔な人々と詐欺犯人、ニヒルな若者をめぐるいささかドタバタ喜劇。陰謀がフリーメイソンとイエズス会によるとされているが、これにテンプル騎士団を加えればエーコの得意の世界転覆陰謀勢力になる。ヨーロッパの「陰謀」の担い手がパターン化しかつ伝統化しているようでもあり、妙に納得感があった。大物の悪漢プロトスの最期があっけなく、読み劣りがしたが、バルザックのヴォートラン的な悪漢であったので、よしとした。G1000。2023/05/16
ケイトKATE
40
エンタメ小説のように、登場人物たちが上手く絡みながら進む物語にページが進んだが、終盤のラフカディオの衝撃的な行為に唖然とした。本書の概要で、”「無償の行為」に走るラフカディオ”と紹介されていたので、ラフカディオは自己犠牲で誰かを救うと思いきや、動機なき殺人行為は、ラフカディオが本当の愛情を受けられなかったことが起因しているのは明らかである。ラフカディオが殺人を犯したことで、人間らしさに目覚める所は『罪と罰』のラスコーリニコフとそっくりであり、人間にとって愛情が必要であることを考えさせられた。 2022/04/15
花乃雪音
22
『狭き門』の著者ジッドが書いた風刺喜劇あるいは茶番劇。風刺というには荒唐無稽だがフェイクニュースと考えると距離をおいて見ると理解に苦しむことを本気で考える人はいつの時代にもいたしこれからもいるのだろうと思わせてくれる。ジッドは『狭き門』のみ読んでいたので堅苦しい印象を持っていたのだが本作でそれが覆った。2024/01/14
星落秋風五丈原
21
【ガーディアン必読1000冊】アンティム・アルマン=デュボワはフリーメーソン会員で生理学者なので、ガチガチの科学至上主義にして無神論者だ。長年リュウマチ性疾患で苦しんでいる。一方妻の弟ジュリウス・ド・バラリウルは作家で敬虔なカソリック信者であり、聖地ローマにいながら神の奇跡を信じない義兄に困っている。何せアンティムは幼い姪ジュリーが聖母マリアのメダルを見せても大人げない事を言う。アンティムが病が治り、突然信仰に目覚める。幽閉されたローマ法王を救い出すという詐欺を企てる〈百足組〉の首領プロトス。2022/07/09
kaze
19
いつものことながら光文社古典新訳文庫は解説がありがたい。アンティムの回心も偽法王の詐欺も現実の事件から着想したものだったのか。という事を知ると余計にラフカディオの「無償の行為」の意味が重い。裏表紙のあらすじを読んだ時にはまさか「無償の行為」が悪事だとは思わないじゃないですか。ジッドはジュリウスを凡庸で道徳的な人物と戯画的に描いているけれど、私は一番好きだった。凡庸で何が悪いのさ。2022/08/09