内容説明
健気に頑張る,あるいは尊敬すべき障害者ーーメディアや映像作品でおなじみのイメージは,健常者の感動の道具として消費するだけの「感動ポルノ」なのではないか? 最近のそんな批判に対し,名作とされる映画からドキュメンタリー,パラ五輪まで個々の表現に分け入り,何が語られていないか,その可能性まで含めて考える.
目次
はじめに┴一 「感動ポルノ」から考える┴二 障害者はどのように描かれてきたか┴三 感動することで落ちてしまう穴とは?┴四 パラスポーツの「パラ」が持つ意味を考える┴五 これからの障害者表象とは 「感動ポルノ」を超えていくために┴六 「差別を考える文化」の創造へ┴あとがき┴付録 「感動ポルノ」を考える映画リスト
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐倉
8
「私たちの常識的な障害者理解に揺らぎや亀裂を入れないような表象やイメージからは、本物の感動、つまり心が根底から揺さぶられる体験は生まれないということです」p29…障害者を描いたもの以外にもポリコレ映画やドラマなどにも言えることだと思う。スポーツで「成功」して感動を与えた障害者、サーカスで差別をものともせずに自己実現して「成功」した障害者など、そういう予定調和の物語が人々をうんざりさせて感動ポルノやポリコレといった冷笑的な言葉に繋がってもいるのではないか。2023/04/12
ねこ
7
本物の感動とは。 一つは常識的な障害者理解に揺らぎや亀裂を入れるもの。もう一つは障害によって引き起こされる感動ではなく、同じ人間としての苦悩や喜びが描かれているもの。 というのが筆者の考えとして書かれていた。たしかに24時間テレビを見ていると障害者を食い物にした映像にしか見えなかったので、この考えにはかなり同意できる部分があった。2022/03/03
蘇我クラフト
6
感動ポルノ。24時間テレビですよね?と反応した学生に対し、ではなぜそれが挙がるのか、考えてみる。 映画から見て取れる感動ポルノの疑問視、特に最後の「最強のふたり」についての説明は面白かった。2023/10/17
二人娘の父
6
社会学者である著者の主たる研究テーマは「差別」とのこと。手軽に概要を知ろうと手に取ったのが本書。著者の差別についての論理は、私の理解では、差別を「絶対悪」として対象化しアンタッチャブルなものにしてはいけない。自己の「差別性」を認めよ。そして「差別してしまうかもしれない」可能性を踏まえた他者理解が大切である。ということか。率直に言ってこれが分かるようで、よく分からない論点である。実践的に、ヘイトスピーチや障がい者差別、沖縄と「本土」との関係理解に、どうつながるのか。私の理解不足であるが、さらに疑問が増えた。2023/05/30
アーク
6
感動ポルノ≒感動の押し売りと本物の感動を見分けるのって難しい、と思わされた一冊。24時間テレビのように一時は感動したものであっても何度も同じ事を繰り返して見せられると最初の感情が薄れて押しつけになってしまうし、本書にあるように障害者の描き方を間違えてしまうと一転して差別と化してしまう危険性もあるよな。差別の本質を見抜くヒントとなる一冊。2022/03/14