内容説明
『スケッチ・ブック』『アルハンブラ物語』とならぶ,W.アーヴィング(1783-1859)の傑作.ブレイスブリッジ邸での婚儀に招かれた語り手が,邸に集う人びとの様々な姿や悲喜こもごもの出来事を丹念に見聞きして語る.英国の牧歌的な風景と伝統的な風俗風習を背景に展開する秀逸な作品.本邦初訳.(イラスト=R.コールデコット)
目次
ブレイスブリッジ邸へ┴忙しい男┴邸宅の召使い┴未亡人┴恋人たち┴家に伝わるもの┴老兵┴未亡人のお供┴即金ジャック┴独身男┴文学の好古家┴農家┴馬術┴愛の兆し┴鷹の訓練┴鷹狩り┴占い┴恋の呪い┴独身男の告白┴ジプシー┴村の名士たち┴校長先生┴村の学校┴村の政治屋┴ミヤマガラスの巣所┴五月祭┴罪人┴恋人たちの悩み┴婚礼┴訳注┴解説
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
41
『スケッチ・ブック』の古風で陽気なクリスマスの舞台となったブレイスブリッジ邸。その邸に結婚式に招かれた時の滞在記。お祝いに集まってくる親類縁者や友人、代々邸に勤める使用人、近隣の住人などの祝宴と春の到来に浮き立つ少し特別な日常が描かれます。特に大きな事件は起こらないのですが、全く退屈しないのは、幾分皮肉も混じった調子と時とともに失われてしまう「古きよき時代」を惜しむ心が全体に淡い陰を与えているからでしょう。結婚式に派生して成立した意外なカップルは、しかしとてもお似合いで笑ってしまいました。皆さまお幸せに!2017/01/04
翠埜もぐら
18
田舎の大地主の婚礼に招かれたアーヴィング氏が、邸の様子から同居人、使用人、村人、そしてジプシーに至るまで、まわりの人物たちと、自然や佇まいを柔らかな描写で綴っていく、小説と言うよりはエッセイ集。ランドルフ・コールデコット氏の素朴な挿絵も微笑ましい。しかしただ微笑ましいだけでなく、鋭い観察眼と微かなシニカルさが文章からにじみ出ていて、新大陸アメリカからやってきたアーヴィング氏から見た、もうすぐ息絶えようとしている古き良きイギリスに対する郷愁のようです。この後怒涛の変革が始まるんだよなぁ。2022/12/24
ROOM 237
16
◯邸とか領主館とか昔の人の屋敷が気になって仕方ない…しかも今から200年前のエゲレスだと?最高かよ!邸での婚儀に招かれたアーヴィングおじさんがここぞとばかりに邸や周辺住民を観察しまくる。短い章ごとにまとめられて読み易く、長閑な風景や当時の慣習や邸周りで野営するジプシーの占いに一喜一憂する紳士淑女、時には家政婦は見たばりにこっそり若者の恋愛事情を探るおじさんw。老いも若きもとにかく恋バナ好きらしく娯楽だったんかな?当時はネトフリで恋愛ドラマ観て気持ちを発散するなんてできなかったもんね。2022/06/24
おおた
14
文章がうまいというのが直感的にわからないくらいに文章音痴だが、本書に限っては翻訳も上手だし、原文もうまいのだろう。上品という言葉がこれほど似つかわしい本もそうそうない。その分、退屈といえば退屈ではあるが、ブレイスブリッジ家で繰り広げられる若きカップルの結婚までを、鷹狩りや馬術、恋愛などロマン派の名に恥じない優しく寛大な視点で描写する。言葉のスケッチとでも言おうか、描写力・再現力がすばらしく、それには著者が見聞した騒動を読みやすく編集する力が働いているにちがいない。挿絵もまた魅力。2015/01/08
ぱせり
6
邸に長逗留しながら、周りの人や出来事を書き留めていく。長閑で心地よい。最後に「私」は、好ましく思うあれこれがまもなく跡形もなく消えていくだろうと惜しむ。人びとや動物たちが織り成す日常が、風景となって遠ざかっていくよう。 http://d.hatena.ne.jp/kohitujipatapon/20180803/p12018/08/03